3228手間
障壁による反撃が意図せぬ挙動なのは彼ら技術者の反応を見れば明らかだが、破壊された障壁が直ぐに再発動出来ないのは仕様なのだろう、まだ起動できないと言われても誰一人焦った様子はない。
「次に使えるようになるまで、どれほどかかるのかえ」
「今回は障壁の半分以上破壊されていますが…… 回路がオーバーヒートしてないようですので、四半刻も掛からないかと」
「ふむ。破壊された後にもう一度使えるまで、それほどかかって大丈夫なのかの」
「障壁を破壊されるほどの攻撃を、障壁でしのげなかった時点で普通は終わりですから、その後の再使用までの時間の考慮は」
「確かに、時間稼ぎにしかならぬであろうからの」
結局障壁は守るためのモノであって、それで相手を倒せるわけではない。
だからこそ反撃なんてする効果を付けたのかとも最初は思ったのだが、なんにせよ障壁を破壊された時点で終わりであり、次の起動迄がどうのなどと考える必要はなかったというのは一理ある話だ。
一度破壊されたのだ、二度三度と破壊するのもそう難しくはないのだから。
「しかし、あの瞬間、どうやって障壁を破壊したのです? あの炎の魔法ですか?」
「いや? 普通に殴っただけじゃが? あの炎は障壁の破片を燃やしただけじゃ、そうせねば服が破れそうじゃったからの」
「殴った、だけ? いやいや、土砂崩れや雪崩でも耐えられる設計だぞ。実際一重だけで土砂崩れを防いだ実績が、しかも多重状態を、ただの拳で?」
ワシが殴ったのは見ていたろうに、その後の炎に完全に気を取られでもしたのだろう、若い技術者はワシの言葉に呆けた後、何やらぶつぶつと呟き始めてしまった。
「彼はあの新型の障壁の開発にも携わっていたのですよ。ただその功績を面白く思わない者のせいでゴーレム開発に回されてしまったのですが……」
「そうかえ。ま、よくあることじゃ」
壮年の技術者がいきなりそんなことを、まるで悲劇の主人公を語るかのような口調でワシに教えてきたが、そんな事はよくあることだと素気無く切って捨てれば、壮年の技術者は何とも困ったような顔をする。
「仰られる通りではございますが、何かこう」
「だからなんじゃと言うのじゃ、ワシには何の関係もなかろう」
「いえ、その、ですね、障壁に何か褒めるべき点が無かったかと思いまして」
「しらぬ。相手がワシ故に無粋であろうと何も言わんかったが、評価を欲しておるのなれば敢えて言おうではないかえ、無意味であるとな」
まるで自分の息子がかかわった者だから何か褒めてと求める親のようであるが、それがワシに何の関係があるというのか。
これが何かの売り込みであるのならば多少は意味があるであろうが、彼が苦し紛れか本心かどちらにしろ言い逃れとして出た言葉に、攻撃を防げぬ盾など無意味だと何を求めていたかは知らないが、技術者たちにとっては最も欲しくないであろう言葉を告げるのだった……




