3225手間
やはりまだまだ見た目通り若いからか、不満が顔に出ているのを見てか、壮年の技術者が休憩にしましょうとワシから若い技術者を遠ざける。
そうしてしっかりと距離が離れたところで、我慢ならないとばかりに若い技術者が歳が上の技術者たちに食って掛かる。
「流石に素手で障壁をというのは信じられません」
「まぁそうだろうねぇ。私も話を聞いたときは全く信じられなかったよ」
「じゃあなんで今は信じてるのですか」
「破壊された魔導具やゴーレムたちを見たからだよ。あれを見てあのお方は我ら凡人とは違うのだと、それまでは帝国兵こそ最高の兵であり、ゴーレムを駆った兵こそ最強だと信じていたのだがね」
「しかし……」
「実際に目にしないと信じられないのも分かります。そうですね、あのお方次第ではありますが、見せてもらうのが一番でしょう」
離れているとはいえ内容が内容だからか、彼らも一応は声を抑えているのだろうが、ワシからすれば堂々と耳元で話しているのと変わりない。
若い技術者が障壁の魔導具を取りにでも行ったのか、駆け足でどこかに行くのを見届けてから、壮年の技術者が申し訳なさそうにワシの下へとやってくる。
「障壁をあやつの目の前で壊して見せればよいのじゃろう?」
「聞こえておりましたか。このようなことをお願い申し上げるのも、お恥ずかしい話ですが」
「よい。ワシとしても疑われたままというのは本意ではないからの」
舐められたままというのはワシとしても面白くない。
ならばその程度の手間なぞどうというこはない。
「ありがとうございます妃殿下」
「しかし、障壁を殴るのは良いが、そのようなモノをなぜ持ってきておるのじゃ」
「軍で運用されるような高性能なモノではありませんが、道中の魔物被害や、万が一の事故を抑える為に常備しているのでございます」
「なるほどのぉ」
「使用するマナもゴーレムに今使っている畜魔器をそのまま流用出来ますので」
「ふむ」
ワシらの話が聞こえていたわけではないだろうが、若い技術者が操縦士に何やら話しかけており、障壁の魔導具にマナを使うためかゴーレムを停止させ、実に手慣れた動きで作業用ゴーレムで背後に繋がっている太いケーブルを抜くと、畜魔器より一回り小さい箱にケーブルを刺してから若い技術者がこちらに駆け足でやってくるのだった……




