3224手間
ゴーレムに搭載された障壁の魔導具は、極々弱い障壁を常時展開して、それが破壊された瞬間に本命の障壁を張るという方法で、障壁を張る時間を最小化してマナを節約していると自慢げに説明しているが、その方法では本当にマナの消費量を最小限に出来るのかは疑問だ。
「その弱い障壁がどの程度の強さかは知らぬが、誰かが触れただけで障壁が発動したりするのではないかえ?」
「誰かがぶつかったり、触れたりぶつかったり程度の衝撃や勢いでは、発動しませんので安全です」
「つまり殴ったり攻撃を仕掛ければ、発動するということじゃな?」
「理屈上はそうですが、実際はゴーレムの装甲を破損しうるような威力のものでないと発動しませんので。生身で切りかかる程度では障壁利用されません」
「なるほど、なればワシが――」
「神子様、流石にそれはあまりにもかわいそうなので」
「ふむ? そうかえ」
どんなものか試してやろう、ワシがそう口にする前に近侍の子が素早く近寄ってきて言葉を遮る。
わざわざ確かめるまでもなく、前の障壁よりも弱いと言っているのだから、障壁がどの程度か確かめる必要はないか。
「しかしのぉ、どの程度から発動するか、見てみたくはないかえ?」
「確かに興味のある話ではございますが、神子様ですと魔導具ごと簡単に破壊してしまいますので」
「そこまで手加減は下手ではないが」
「神子様の手腕は一分も疑ってはおりませんが、ゴーレムの脆さがどれほどかは分かりませんので」
「なるほど、それもそうじゃな」
「待って今のは流石に聞き捨てならないな、私たちの最高傑作であるゴーレムがもろ――」
「貴方は黙っていなさい」
近侍の子が言う通り、人の身なればどの程度、手加減すれば壊れないかというのはよく分かっているが、ゴーレムではその加減が分からない。
ならばいたずらに小突くのは止めようとワシが考えたところで、ゴーレムが脆いと言われた若い技術者は、ムッとした様子で何かを言いかけたところで、後ろから同僚に口を塞がれながら羽交い絞めにされ引きずられてゆく。
「貴方はあのお方が戦時中、いや戦などというのも烏滸がましい一方的な戦いで、どれだけのゴーレムを打ち破って来たか知らないのでしょう」
「だからって、流石に無手とか剣程度でゴーレムがどうにかなるような――」
「なるんですよ、あのお方なら。あのお方は、素手で、最大出力の、障壁を、破壊してます」
随分と上の歳であろう技術者に上から畳みかけられるように圧を掛けられた若い技術者は、全く信じてなさそうな顔ではあるものの、これは逆らってはいけないと思ったのか、こくこくと小さく頷き大人しくこちらに戻ってくるのだった……




