3219手間
ゆっくりと立ち上がったゴーレムは、確かに前に見た帝国製のゴーレムに比べると圧倒的に小型だというのが分かる。
胴体は大体成人男性の背よりも少し長いかといった具合で、無人ならばともかく、操縦士が居ることから有人なのだろうが、一体どこに収まるつもりなのか。
そう考えているとゴーレムは跪き、人で言うなれば鎖骨辺りからへそ迄が、まるでカニの腹板、所謂ふんどしのように前に開くと、中に何やら複雑な機械類と椅子というよりもちょっとした段差のようなモノが見えた。
「あそこがコックピット、要はゴーレムを操る場所です」
「随分と狭いようじゃが」
「ゴーレムそのものが小型化しましたので、こればかりはもう。もちろん、長時間の任務でも快適に過ごせるように、空調設備も完備しております」
「ふむ? 空調設備とはなんぞや」
「端的に言えば換気しつつ、冷たい風を送る装置です。やはり閉所ですからどうしても熱が籠ってしまいますので」
「なるほど。しかし、外の風を取り込んでおるとなると、毒でもばらまかれたら大変じゃのぉ」
適当に毒でもばらまかれたら、外から空気を取り込んでいる以上はどう考えても大変なことになるのは目に見えている。
まぁ別に毒のように物騒なモノでなくとも、砂埃やらが入り込んでしまっては、相当不快な思いをすることになるはずだ。
「もちろんその辺りも対策済みです。空調設備には外部からの毒はもちろん砂埃などの遺物を遮断し、任意で完全に外部と遮断する機能も持ち合わせています」
「ほう、それは凄いのぉ」
「正直に言いますと、実はこの毒を遮断する機構、なぜ動作するか分かっていないんですよね……」
「そんなモノを使って大丈夫なのかえ?」
「えぇ、そこは大丈夫です、その機構そのものは、私が生まれるより前から使われているモノですので。誰も薪にどうして火が付くのか分からないけれども、火をつけて使っているのと同じです」
「そういうものかえ」
原理が分かっていないが、なぜかそうなるので使っているというモノなどごまんとある。
いや、そもそも殆どの者が、なぜそうなるかなど考えずに道具などを使っているのだから、どうせ使うのは帝国の者だ、何か致命的な欠陥があったとしても彼らの責任でしかない。
「とはいえそれは基本的な、旧式のゴーレムにもある機能。これから新型ゴーレムの機能をお披露目いたしましょう」
その言葉を合図に、ゴーレムの操縦士が操縦席へと乗り込み、操縦席の天井から吊り下げられている小手のようなモノに手を通し、足元から生えている鐙に足を固定すると、開いていた装甲が自動的に閉じ、再びゆっくりと立ち上がるのだった……




