3218手間
どうやらしびれを切らしたらしいゴーレムの操縦士の催促を受け、ようやくゴーレムの稼働を指示した若い技術者の下に、わらわらと別の技術者たちが集まってきて、固唾を飲んでゴーレムの起動を見守っている。
その様はまるでようやく完成にこぎつけたゴーレムが、初めて起動するのを見守るかの如くのようだが、ここに来るまでに稼働実験は何度も済ませ、問題なく稼働することが分かっているからこそ、あのゴーレムはここにあるはずなのだが。
「よもや報告を偽っておるのではないじゃろうな」
「まさかそのような事は! 何と言えばよいのでしょうか、帝国魔導技術研究所にはジンクスといいますか、良くない教訓のようなものがありまして」
「ほう? それはどのようなものじゃ」
しっかりと起動実験などは済んでいいるという報告書は偽りの物で、実際はこれが殆ど初めての起動なのかと言えば、若い技術者はぶんぶんと頭を振りながら、彼らが緊張している理由は別にあると弁明する。
「新しい魔導具は、さんざん試験を行ったにもかかわらず、よりにもよって披露目の際に新しい不具合が発生したり、前日に取り付けた部品が何故か正反対に取り付けられてたり等など」
「それは単純におぬしらの落ち度ではないのかえ」
「もちろん昔から、披露目の前は通常のチェックを終えた後に人を変えて同じチェックを三度するということをしているのですが、それでも何故か単純なミスが起きたりと……」
「で、このゴーレムも同じように検査したのかえ」
「いえ、五度ほどやりました」
「そうかえ……」
前の人がチェックして大丈夫だから大丈夫だろうと、ろくに見もせずにチェックを済ませているのではないか。
五度もチェックしたところでそんな人が居れば意味がないだろうと聞いてみれば、技術者たちはそろって首を横に振る。
「昔、そういった事をした者が居たので、検査表はすべてのチェックが済むまで秘匿され、検査した者同士も接触しないように徹底しております」
「それは何とも厳重じゃのぉ」
「それでもなお、なぜか披露目の時だけ問題が起こるので、もうそういった呪いでも掛けられているのではないかと言われてます」
「呪い、のぉ……」
幽霊と同様に、そういうモノであるという技術者たちの思念が魔導具に影響している可能性は十分にある。
何せ魔導具はマナを利用して動かす物であるので、人の想いというのを受け取りやすいのだから。
果たして今回はジンクスか技術者たちの祈りどちらの想いが勝ったのか、彼らの目の前でゴーレムは無事なにごともなくゆっくりと立ち上がることに成功するのだった……




