3216手間
茶を飲み終わったころ、丁度思索から戻ってきたのか、若い技術者がゆっくりと顔を上げてこっちへ向き直ると、カッと目を見開いてこちらへ駆け寄ってくるものだから、近侍の子らが刀を抜いて若い技術者に突きつける。
「わっ、わ、まってくれ、そのテーブルとイスが見たいんだ」
「よい、解放してやるのじゃ。どうせワシに何かすることは能わぬからの」
「おぉ、ありがとうございます。それにしても、これはマナの塊でできているのか、いったいいつの間に運び込んで……」
近侍の子らから解放された男は、流石に噛り付くようにといかないまでも、テーブルに顔を近づけて目を輝かせている。
「ほう、初見でこれをマナの塊と見抜くかえ」
「えぇ、魔石を嫌というほど見てきましたから」
「ま、これは魔石ではないがの、マナが結晶化した晶石、それよりもさらに純粋にマナが凝縮した魔晶石じゃ」
「なるほど晶石の、確かにこの安定具合は魔石よりも晶石の特徴か。それにしても、これほどまでに高純度のものをどこで採掘したのか聞いても?」
「秘密じゃ、と言いたいところじゃが、既に披露しておることじゃしの、これは採掘したモノではないのじゃ」
そういって彼の目の前で新たに魔晶石製のティーカップを創り出せば、若い技術者は目玉を零さんばかりに見開いて声もなく驚く。
その様が痛快だとくつくつと笑えば、すかさず新しく創り出したティーカップに近侍の子がお茶を注ぐ。
「手品かなにか、ですか?」
「そんなこすい手を使うかえ、これはワシのマナをそのまま結晶化させたものじゃ」
「まさかそんな、体内にどうやって結晶化できるほどのマナを溜めることが、理論上の個体限界値を遥かに超えている」
「何を言うておるかえ、人であれ物であれ、その内にあるマナは結晶化はせんぞ、でなければ地脈をマナが流れることも無理じゃろう」
「そんな学説では、いや、しかし、地脈はあるかどうか説が割れて」
「帝国の学問は一体どうなっておるのじゃ? 地脈はあるに決まっておろう、あれほど美しいマナの流れもないというに」
「しかし、そうなると仮に個体に無制限にマナを溜めれるとして、一体どうしてマナを溜める量が変化するのか」
「それは実に簡単な事じゃ、個々が持っておるマナを保持する力の大小じゃ」
どれほど小さな石であろうとも、マナを野放図に溜めること自体は可能だ。
しかし実際にそれが不可能なのは、小石がもつマナを保持する力が小さいからだ。
それを伝えれば、若い技術者は何やら考え込んだ後にハッとした表情を見せると、地面にどこからか取り出した何か棒状のもので、地面に何やら文字を書き連ね始めるのだった……




