3214手間
それでは新型ゴーレムの説明をと誇らしげに言う若い技術者に、ワシはその説明の前にと声をかける。
「新型ゴーレムの説明ならば、アレで実際に動かしながら見た方が早いのではないかの」
「おっしゃる通りなのですが、実はまだ起動は出来ないのです」
「む? 上半身を起こしたのは違うのかの」
「はい、あれは厳密には正式な起動方法ではありません。この稼働評価において、物理的に制限を持たせるために、敢えてこのような形にしているのです」
「妃殿下、包み隠さずに申し上げますと、本来背負う形で実装するはずだった畜魔器、要はマナを溜める装置に致命的な欠陥が見つかったために今回お持ちできなかっただけです」
「ちょっ、主任そんなこと言ったら」
「いや、そういう話は全部こっちに来るから、下手に隠し立てした方が問題じゃぞ」
ゴーレムに、この場合はその稼働に必要な装置に致命的な欠陥が見つかった。
それは技術者にとっては首にナイフを突きつけられるような出来事だったであろうが、どうせ後で報告書がワシの下に届くのだ、隠し立ては良くない。
「えーっと、一応は以前のゴーレムに使っているのと同型の畜魔器も利用できますので、ゴーレムの稼働には問題ございません」
「では、なぜわざわざその、ちくまき? とやらも既にあるのに新しいモノを作ったのかえ」
「それはですね、旧式の畜魔器ですと出力に対して…… あー、グラスに水を注ぐのに、水瓶ごとひっくり返して注いでるような感じで無駄が多すぎるのです。それと単純に新型ゴーレムには大きすぎますので」
「なるほど、確かにそれは新しいモノを作る必要があるのぉ。しかし、見つかった致命的な欠陥というのはなんじゃ」
「稼働させてからある程度、大体四刻ほど連続して稼働させると、過剰にマナが流れ出るようになってしまうのです」
「ふむ、致命的というほどの欠陥ではないような気がするが」
ある程度の時間連続して稼働していると、畜魔器から一気にマナが流れてきて、すぐにマナが枯れたり、最悪ゴーレム側に不具合が出るという。
しかし、それは致命的というには少々拍子抜けと言えばよいのか、確かに不具合が出ているので改善する必要はあるのだろうが、致命的という程ではないような気がする。
「ゴーレムを利用するのは主に軍ですので、長時間の安定した稼働は必須、それを考えるとやはり致命的というか、下手をするとゴーレムの研究を撃ち切らなければならない事態に」
「なるほど。確かに軍で稼働させるならば、信頼性は何より重視したいところじゃな」
軍という臣民の安全を確保するための組織で使うモノが、途中で動かなくなりましたでは確かに致命的というにふさわしい不具合だが、そんなモノがあるならばそもそもこの新型ゴーレムも許可するわけにはいかなくなるがと言えば、大慌てでワシに言い訳なのか大袈裟な身振り手振りで大丈夫ですと、技術者たちが慌てて集まってきてワシを説得しようと必死になって言い訳を並べ立ててくるのだった……




