3213手間
ワシに大仰に挨拶したかと思うと、若い技術者は嬉々とした様子で新型ゴーレムについて語り始めた。
「まず最初に誤解を恐れずに申し上げますと、この新しいゴーレムは、従来のゴーレムに比べると弱いです」
「ほう? 前のものより劣っているモノを作って意味はあるのかえ」
「確かに劣ってるとも言えますが、それがすべて悪い事とは言えません。というよりも、以前までのものは明らかにオーバースペック、要は無駄に強かったのです」
「ふぅむ? 強いのならば、それに越したことはないのではないのかの」
「強いことは悪い事ではないのですが、何事も過ぎたるは猶及ばざるが如し、十の力が必要なところに百の力をぶつけても九十は無駄になるわけですから」
「確かにそれも一理ある話じゃ。しかしそれならば、百の力を十の力に抑えればよいだけではないかえ」
彼の言う通り、十で充分なところに百を与えても九十が無駄になるから、じゃあ十の力を発揮するモノを作ればいいよねという理屈は分かる。
だがそれならば百の力を十に抑えればいいだけではないか、そうワシが聞けば、彼は大袈裟に首を横に振る。
「人ならばそれで良いのですが、ゴーレムはまず作る必要があります、百の力を必要とするこはないのに、百の力を持つゴーレムを作っても無駄になるだけですので。なので百のゴーレムを作る資材などで、十のゴーレムを十体作った方が良い、極端は例えではありますが、新型はそういった理念のもとに作られております」
「なるほど。しかし、百のゴーレムを必要としておったのに、いきなり十のゴーレムにして大丈夫なのかえ」
「正直百のゴーレムを作って何がしたかったんだと、十ですら持て余す可能性があるのですから。大規模な侵略戦争を仕掛けたら、十の力では不足があるとは思いますが」
「戦をせんというのならば、不要という訳かえ」
実際、帝国軍もゴーレムだらけという訳ではなかったが、その理由の一端を今更ながら知った気がする。
極端な強さにして、局所的に投入するような使い方をしていたのだろう。
そもそも量産できるようなものでもなかったのかもしれないが。
「えぇ、魔物や野盗などに対応できれば十分過ぎますから」
「して、このゴーレムの特徴はそれだけかえ」
「いえいえいえ、これは大前提、いきなり弱いと言われても納得されないでしょうから、その説明です」
「つまりこのゴーレムの特徴はそれ以外じゃと?」
「はい、もちろん」
ただ単に今回のゴーレムは、前までのよりも弱いというのを納得して貰うためだけの説明で、このゴーレムの特徴はまだ説明していないとばかりに、若い技術者は嬉しそうな笑顔で力強く頷くのだった……




