3211手間
目の前で作業用ゴーレムに乗った人々によって組み立てられているのを、少し高い足場から俯瞰して見れば、なるほど確かに人型をしている。
そして気になるのが、腕と脚はいかにも作り物といった四角形を主としたデザインなのだが、胴体は筋骨隆々な男性の身体を鋭角的に掘りぬいた彫刻のようなデザインで作り上げているのは、一体どんな意図があるのだろうか。
「あの姿にはなんぞ理由はあるのかえ」
「先ほど申し上げました設計者曰く、そっちの方がかっこいいからと……」
「なる、ほど?」
デザインとして「そう」である必要がなければ、自分の好きなように設計したところで、まぁ作りにくいという点を抜けばそこは自由にしていいだろう。
それに人に、特に今回のように偉い人に見せる時は、見栄えが良い方がいい印象を与えるという点でも見た目を整えるのは悪い事ではない。
「しかし、ふむ、これを設計した者は、随分と格好良さに拘っておるようじゃが」
「大体は本人の趣味でございますが、彼曰く防衛用なのだから、見た人が安心感を覚えるデザインの方が良いからと」
「なるほど、確かに見栄えが良い方が頼もしく見えるからの」
実態が伴っているかはともかく、門の守衛として如何にも頼りない風貌の者よりも、しっかりとした鎧を着こみ背筋を伸ばして立っている者の方が安心感を覚えるだろう。
それはゴーレムとて同じであろうが、別にそれは前からの甲冑のような姿でも同じではないのだろうか。
「その点で言えば、前のものもさして問題はないのではないかえ?」
「私共も同じように考えていたのですが、これも彼曰く、大敗したモノなんだから改めないと、とのことでして」
「それも一理あるが、大敗した様を見た者はおらんじゃろう?」
「彼自身も、先の戦の時は産まれたばかりでしたので見てはいませんが、負けたというイメージは、見ていない者の方が強いのだと。実際に戦っている場を見た者は、逆に負けたとしてもしっかりと抗っている姿を見ているので、頼もしく感じるのだとか」
「なるほど、すぐに壊しては面白くないからと遊んだからのぉ」
「あ、遊んだ、ですか、アレを……」
ワシの傍にいる技術者は、それなりに老け込んでいるので帝国が負けた時も技術者として働いていたのだろう。
何やら遠い目で「アレを」と何度もつぶやいている。
そこへ同僚らしき者が駆け寄ってきて肩をゆすると、彼はハッとしてワシに勢い良く頭を下げて謝罪する。
「も、申し訳ございません。当時私も障壁などの魔導具に関わっておりましたもので思わず」
「ほう? あれらに関わっておったのかえ」
「と申し上げましても、根幹技術は秘匿されておりましたので、整備などで、ではございますが」
ワシには簡単に喰われてしまったが、本来技術というのは早々簡単に獲れるモノではない。
秘密を広めない為には、黙っているよりもそもそも知らない方が良い、なにせ知らないものについて語れるものはいないのだから。
だから私は未だに何も知らないのですと謝罪する技術者にひらひらと手を振り、更に組みあがってゆくゴーレムに視線を戻すのだった……




