3210手間
ゴーレムというものは一応は機密の塊なので、帝国の新型ゴーレムがやってくるまでに、街から少し離れた場所に、ドワーフたちの尽力によって急遽試験場を建築し受け入れ準備が出来たところを見計らったかのように、神都からゴーレムを連れた一団がやってきた。
とはいえ一見ではゴーレムを運んでいるようには見えないのだが、なかなかの数の荷馬車を厳重に警備しているので、一目で何か重要なものを運んでいるのは分かる。
そんな彼らは街に寄ることなく、ぐるりと街を避けるように遠回りしてゴーレムの試験場へと向かうと、荷馬車に荷物のように詰め込まれていた技術者たちが現れ、同じように荷馬車に載せられていたゴーレムに乗り込んでゆく。
「ほう、あれが新型のゴーレムかえ」
「はい、確かにあれも新型ではありますが、あれは作業用のゴーレムでございます」
「ほう?」
人が座る椅子に手足が付いたような簡素なゴーレム、これが聞いていた新型かと、やや落胆気味に帝国から来た技術者に聞けば、彼は一応あれも新型だが本命は別にあると自信満々に答える。
「兵器としてのゴーレムは、人力で組み立てるのは大変ですので、以前はゴーレムクレーンなどを用いて組み立てていたのですが、それですと特定の場所でしか組み立てなどができず、特に整備の時に不便でしたので強力を発揮し小型のゴーレムも併せて開発したのです」
「なるほどのぉ。確かに鍛えるよりは万人が出来そうなモノじゃな」
何より整備などを行うのは技術者たちだ、一応彼らも重い部品などを扱うので多少は鍛えているのだろうが、それでも限界というのはある。
それを考えると、誰もが使えるゴーレムで力を補うというのは当たり前の発想か。
「して、本命はどこにあるのじゃ?」
「こちらでございます」
ならば今回、実働試験を行うゴーレムはどこにあるのかと聞けば、目の前の何やら複雑な形の箱を指差す。
ワシは甲冑のようなモノを想像していたので、これもゴーレムを組み立てる為の機械かと思っていたが、よくよく見れば丁度目の前にあるのは、拳を握った右腕のようにも見える。
「甲冑、とは違うのじゃな」
「私共もゴーレムとは巨大な甲冑であると考えておりましたが、とある若い技術者がこのような鋭角を多用したデザインで開発しまして」
「ふむ。若いのの意見を取り入れるとは、全ての職の者に見習わせてやりたいのぉ」
「そうでしょうと頷ければ良かったのですが、彼が偏に優秀だから、ですね。その分だけ謎のこだわりを発揮するのが難ですが」
職人などを始めとした技術職では、若い者の意見というのは軽視されがちだ。
しかしそれをせず、若者の意見を取り入れたのは良い事だとほめれば、ワシに説明していた者はややばつが悪そうに、偏に意見を無視することが出来ないくらい優秀なだけだと答え、そして箱を組み合わせたような装甲にこだわったりなど変な事をするんですと、困ったように続けてこぼすのだった……




