3209手間
件の告知を出した後は、随分と許可を求める書類が減って安心していた所に、何やらクリスが難しい顔をしてやってきて、ワシに二枚の書類を差し出してきた。
「陛下から、セルカにこの書類の判断を託すと」
「ふむ……? これはなるほど」
クリスのざっと渡してきた書類の一枚目は手紙でそれを見れば、帝国が新たなゴーレムを開発したので、それの実働試験を行いたいというものだった。
王が判断をワシに委ねてきたのは、帝国は実質ワシのモノと言ってもいい状態だというのもあるが、ゴーレムを稼働させるに神都付近では危険であるからと。
何より、ゴーレムの性能を見るにワシが一番ふさわしいからと書いてあった。
そしてもう一枚はゴーレムをこの領に移動させる為と、その実働試験を行う許可を出すという書類だった。
「ふむ。まぁ良いんではないかえ?」
「セルカならそう言うと思っていたよ」
「そう思っておったのならば、なぜほっとしておるのじゃ?」
「いや、私も陛下から手紙を貰っていたんだけどね、セルカなら断らないだろうから、既に送ってるって」
「送る? ゴーレムをかえ?」
「それもあるが、我が国と帝国双方の技師とかもだね」
帝国はゴーレムを始めとした魔導具の技術を神国に開示しなければならないので、その実験に神国の技師も同席しなければならない。
とはいえ技術者を早々簡単に動かすわけにはいかないので、その移動には色々と手続きが必要なのだが、ワシが許可を出してから連絡を受けて、それから手続きをしていては数か月の時間がかかるので、ワシが返事を出す前に既に手続きを終えてこちらに移動させているという。
「事後承認ここに極まれりといった所じゃな」
「国王だからこそ、だね。あとはやっぱり、セルカなら断らないだろうという信頼だろうけど」
「信頼と言っていいのかのぉ」
これを信頼と言っていいのか、まぁだが手間がないというのはワシとしてもありがたい。
そして何より帝国が新たに開発したゴーレムというものに興味もある。
帝国は兵器としての魔導具を最低限の防衛用しか開発や所持を許されていないので、今回のゴーレムも防衛用の新しいモノなのだが、いったいどんな新機能を盛り込んでいるのか。
「して、どのくらいで来るのかえ?」
「陛下からの手紙を見る限り、一月以内には来るんじゃないかな」
「なるほど、随分と手回しが良いようじゃな」
ワシは気が長い方だが、やはり早いのならばそれに越したことはないと、書類に許可のサインを嬉々として入れるのだった……




