3202手間
やはりいつもの道より人通りは多かったが、特に何事もなく屋敷へと帰り着くと、ワシは真っ先にクリスの下へと行き、執務室のソファーへとどっかりとやや乱暴に座る。
「どうしたんだい?」
「なぜ武闘大会をやっておるのを黙っておったのじゃ? しかも一度や二度ではなく、かなりの回数こなしておるようではないか」
「前に興味が無いって言ってなかったかい?」
「大会に出ることに興味がないだけじゃ。別に見ることを厭うてはおらぬ」
「そうだったのか。それならもうちょっと良い立地に建てればよかったか」
「なんじゃ、もしやワシに気を使ってあの場所に建てたのかえ」
本来はもう少し良い立地があったそうだが、そこではワシの耳に歓声が入りそうだからと今の場所にしたという。
その気遣いは良いのだが、別に嫌っている訳ではないので、わざわざワシの耳に入らぬよう気を遣う必要はなかったのではないか、そう言えばクリスはハッとしたような表情をする。
「そう……か、そうだよな」
「気付いておらんかったのかえ」
「あぁ、いや、まぁセルカがそんなことで文句を言うとは思ってはいないけれどね、だからといって気を付けない理由にはならないからね」
「殊勝な考えではあるが、なれば先に聞いておけばよかろうに」
「耳に入らないようにするなら、完全にと思っていてね」
クリスの言う通り、知っているのと知らないのとでは、そこに対する注意力と言えばよいか、気になるかどうかは全く違ってくるだろうが。
まぁ、別に嫌がらせとして黙っていたわけではないので、これ以上は咎めるつもりもないが。
「して、クリスは何度も見にいっているのかえ?」
「いや、節目の大会くらいだね。一応出資はしているが、今度からセルカも一緒に見にいくかい?」
「当然であろう?」
見ること自体は別に嫌いではなく、むしろ好きな方だと言ってよい。
でなければ今回のようにわざわざ観戦しに行くこともない、そう言えばクリスは降参するように両手を上げてから、今度から大会があるときは声をかけると約束するのだった……




