3201手間
いつもより観客たちが興奮してでもいたのか予定よりも人がはけておらず、帰宅できるまでまだしばし時間がかかると、死にそうな顔で報告してきた接待の者に問題ないと、ことさら軽く見えるようにひらひらと手を振って答える。
「はよう帰れと急かすも無粋じゃからの、むしろ貴族からそう言われれば、慌てて怪我人など出てしまっては更に遅れる原因じゃろうて」
「王太子妃殿下の寛大なお心遣いに感謝いたします」
「よいよい、それにあ奴らもさして気にしてはおらんようじゃしの」
ワシが指差す先には、まだまだ話足りないとばかりに酒を煽る貴族たち。
本来ならば真っ先に文句を言いそうな者たちだが、先にワシが気にしないと言った手前、彼らが文句をいう訳にもいかないのと、何より酒が入って気が大きくなっているのだろう、彼らも気にしていないと接待の者にひらひらと手を振る。
「ま、なんにせよじゃ、下手に急かして場を乱すようなことはせんようにの」
「かしこまりました」
ワシらの言葉を曲解してまだ残っている者たちを追い出してはいかんと、再度釘を刺してから報告に来た接待の者を解放する。
「先に王太子殿下に御帰館が遅れます事、お伝えしてまいります」
「んむ。まだ下は混んでおるようじゃからの」
「はい、最大限気を付けてまいります」
「んむ」
一応ここに寄るときに、先に屋敷へと戻らせた近衛が武闘大会を見てから帰ると伝えているが、更に遅れるならば伝えておいた方が良いだろう。
ワシがそれを言うより前に、近衛の一人が先に提案してきたので、丁度よいとばかりに彼に伝令を頼み先に帰らせる。
「ところで、ワシの殺気で気を失った者が何人かいたようじゃが、彼らはどうなっておるかの」
「医務室で休ませておりましたが、既に皆目が覚めておりますが、場が落ち着くのを待って帰宅はさせておりません」
「そうかえ、ふむ、なればその者らに、恐ろしい目を見せてしまった詫びとして菓子でも与えてやるのじゃ」
「かしこまりました」
かなり薄めたとはいえ殺気は殺気、気を失った者は大会側で介抱していたようだが、流石にその原因として誠意を見せぬのも何であると、人酔いしないようにまだ帰していないならば幸いと、お菓子と飲み物でも差し入れて来てくれと、侍っていた接待の者に頼むのだった……




