3200手間
流石に貴族と言った所か、いくら酒が入ったとしても庶民のようにどんちゃん騒ぎを始めることもなく、外見上は実に優雅にお酒をたしなんでいるようにも見える。
が、近衛がすげなくあしらっているところを見るに、恐らく中身は酔っぱらった庶民と大して変わりないのだろう。
「いつもこうなのかえ?」
「いえ、王太子妃殿下。彼らの名誉の為にも、いつもはこのような事にはと、証言させていただきます」
「ふむ」
あれだろうか、恐怖から解き放たれて箍が外れたとか、そういった所だろうか。
危険な任務を終えた後は普段は厳格な騎士たちも羽目を外し、後で上官から大目玉を食らい、その報告書にクリスが苦笑いするのだ。
今回はワシが発した殺気に怯え、その恐怖から解放された浮かれた気持ちで酒をついつい飲み過ぎたと。
まぁなんにせよ、彼らを叱るのはワシの仕事ではないからと、気を利かせてさりげなく彼らをワシから遠ざける接待の者に、後で酒など届けさせるかと近侍の子らに耳打ちする。
「差し入れた酒が美味すぎたなどという、阿呆な事ではないと良いんじゃがの」
「いえいえ、まさかそんな。王太子妃殿下に恥をかかせるような事をするわけが御座いません」
「なればよいんじゃがの」
ワシが届けさせた上質な酒に、ついついグラスを傾けすぎたなどということではあるまいな。
冗談のような一言ではあったが、接待の者の隠そうとはしているがその慌てぶりを見るに、彼らも頭の片隅ではそう思ってはいたのだろう。
それも致し方ない話だ、差し入れの気遣いとして、あまり癖のない飲みやすい物を選んで持ってこさせたのだが、今回はそれが仇になった。
口にはしないがワシにも原因の一端はあるとして、晴れの日でもあるし彼らの行いに目をつぶろうではないか。
「それにしても、いくら酔っておるとは言え、よくこれほど語らうことが尽きぬのぉ」
「よくここに来て下さる方々は、やはり好きで見に来ていただいておりますので」
「なるほど。好きなモノの事となると饒舌となるは、どこのどんな者でも同じという訳かえ」
自分の好きなモノの話題となればとたん饒舌になる者がいるが、それは庶民であろうと貴族であろうと違いはないのだろう。
そしてさらにここには同好の士ばかりが居合わせているのだ、正確に言えばワシを除いてではあるが。
となれば話に花が咲くのも必然、そして話を続ければ喉が渇く、喉が渇いたところに飲みやすく普段からは飲めぬような上等な酒、この惨状は当然と言えば当然だったか。
「ふむ、差し入れる酒を二、三本増やしてやるかのぉ……」
やはり考えれば考えるほどワシが原因のようだ、益々酒を煽り上機嫌になってゆく貴族たちを前に、ワシはぼそりとそう呟くのだった……




