3199手間
大会のすべての予定が想定外の事も含めてすべて終了し、最後にワシが締めの挨拶を述べ、大盛況の内に大会は幕を閉じた。
観客たちは興奮冷めやらぬといった様子で、今日見たことを楽しそうに話しながら帰路に就くのを眺めていると、貴賓席には次々と飲み物や軽くつまめるような食事が運び込まれ始め、ちょっとしたパーティのような様相を呈してきた。
「いつもこうなのかえ?」
「はい。皆さまは、いつもここでしばし楽しく過ごされます。正直に申し上げますと、大会が終了して直ぐは下の皆さまがお帰りになっておりますので、同じように帰られますと」
「なるほど、危ないという訳かえ」
確かに他の観客が一斉に帰っているときに共に帰れば、馬車はまともに動かないであろうし、興奮した観客たちに巻き込まれるので何かあった時に危険であろう。
であるからか、最初に平民たちが続いて特別席を購入した裕福な者たちが、そして最後に貴族が帰ると決めたらしい。
そして当然最後に帰るのだからそれまでの間が暇ということで、必然的にここで食事などを楽しむようになったという。
「なれば、そうじゃな。今日の費用はワシが全て持とう、あと追加で良い酒などを用意するのじゃ」
「かしこまりました」
ここで出る食事はチケット代に含まれているようだが、全てがそこから賄われている訳ではなく、出資されている運営費からも出ているようなので、ならばと今日掛かった費用はすべてワシ持ち、そしてさらに良い酒などを追加するようにと指示を出せば、この場に居た貴族たちがグラスを掲げ謝意を伝えてくる。
「流石、王太子妃殿下は寛仁なお方だ」
「ありがとう存じます、王太子妃殿下」
「よいよい、存分に楽しむがよい」
すでに酔いが回っているのか、随分と軽い様子でワシを褒めたたえる貴族たちに軽く手をあげて答え、ワシも接待の者が持ってきた酒を手に取り口にする。
「それにしても、今回は兵士の部が盛り上がりましたな」
「それに比べると、一般の部のアレは……」
「確かに、棄権が多すぎましたな」
終わってからならば何とでもいえるモノで、あそこの攻め方がどうのなどと酒が入っていることもあって、貴族たちは今日の戦いについて訳知り顔でケチを付け始め、ワシはそれを少し離れた席から苦笑いして眺める。
「こういうのは身分などに関わらず同じようじゃのぉ」
「そうでございますね」
何の試合にせよ、素人が後からどうこう言うのは身分関係なく同じなのだろうと、ワシや近侍の子はどうせ場を白けらせるような真っ当な事しか言えないからと、意見を求められぬように気配を消して近衛たちを盾にして、出された料理を食べるのだった……




