3196手間
あらゆる攻撃を防ぐ盾、それは前線で戦う者や危険な環境に身を置く者にとって垂涎の的であろう。
だか今回のような試合では無粋であろうし、何より大量のマナを利用するので個人では展開するのが不可能な上に、ワシが普段使っているように肌にまとわせて使えば、その大量のマナによって半刻もせずにマナ中毒になるだろう。
要は基本的に使えない技術であり、元々実用化していた帝国であっても、常時ではなく相手の攻撃が来ると確定してから使っていたようだが。
「まぁ、障壁がなくとも、ワシに傷をつけるは不可能であるがの」
「だからそんなにも、恐れ知らずな動きが出来るのか」
「ふむ? 人から見るとワシの動きはそうもあからさまかえ?」
「実際に対峙してみないと、多分、分からないかな」
「ほう? おぬしはどこを見てそう思ったのかの」
「踏み込んできたときに、何と言えばいいんだろうか、反撃に備えていない? 考えていない? 本当にどう言えばいいか」
「いや、よい、言いたいことは分かったのじゃ」
間合いから離れている上に、ワシが全く攻撃する気配がないからか、試合中にも関わらず相手も呑気に答えるが、どうも彼が感じたことを上手く言葉にはできていないようだが、言いたいこと自体はよく分かった。
ようするにワシは障壁を張らずとも、剣が当たろうが矢が当たろうが何の痛痒も感じない、そも効果がないのならばそれを恐れることも考える必要もない、ワシの動きに彼らのような戦いに身を置く者が殆ど無意識にやっているような動きというか心構えのようなモノがワシには一切なく、それが強烈な違和感として見えたのだろう。
「王太子妃殿下、その大変申し訳ございませんが、皆には会話は聞こえませんので」
「おっとそうじゃったな。ふむ、しかしこれ以上なぶるのも趣味ではないしの。なれば一つ、最後に試練を与えようではないかえ」
「試練?」
「んむ、おぬしは全力でワシに一撃を振り下ろせばよいだけじゃ」
「……? わかった」
ただ一撃を繰り出せばいい。
それを試練と言われ彼だけでなく審判も首を傾げるが、彼はとりあえず言う通りにすればいいかと開き直ったのか、そのまま首を縦に振る。
そして最後であるからにはワシの強さというものも証明せねばならない、もちろん今までの動きで十二分に証明は出来ているだろうが、それは皆が理解できる、場合によっては対処できるのではないかという範疇での強さだ。
しかし、それだけでは国を単騎で墜としたという言葉が嘘と思われかねず、そう思われるのは実に心外だ。
なれば誰もワシに敵うことはないと、皆に知らしめねばならない、そのためには気の弱い者には少々酷なことをしなければならいが、まぁそんな者はそもそも武闘大会なぞ見には来ないだろうと、勝手に解釈し彼が構えるのを鷹揚な態度で待つのだった……




