3194手間
奪い取った剣の柄を握り、横に斜めにと何度か振れば奪い取られた相手は、狼の顔でもわかるくらいにぽかんと呆けた表情をする。
「ふむ、やはりこの程度の物、片手で扱えるくらいではなくてはのぉ」
「いや、無理…… だろう?」
思わずと言った様子でワシの言葉に返すが、一応はカカルニアであればこれを片手で扱えるような者はいた。
もちろん両手で扱った時よりも威力などは落ちはするが、それでも片手で扱えるか否かというのは、使い勝手に大きくかかわる。
「ま、両手でも良いから十全に使えるようにすることじゃ」
「あ、あぁ」
くるりと剣を回転させ、相手に柄頭が向くようにして剣を返す。
男はそれを躊躇いがちに受け取ると、その場で攻撃などすることはなく、自分の間合いよりも外に跳ねるように飛び退る。
「ふむ、すぐに切りつけて来てもよかったんじゃが」
「武器奪われて、返してもらってそれは、な」
「まぁよい。ではここからはワシが攻めるからの、必死で防ぐがよい」
そういってワシは拳を握り胸の前で構えると、相手は剣を盾にし、更にそこへ肩をぶつけるように支えてワシの攻撃を待つ。
「では、ゆくぞ」
かけた言葉に対する返事を待つことなく、ドレスのスカートを翻さないために地面の上を滑るように間合いを詰め、軽くジャブを一発撃ちこめば、重い金属同士がぶつかったような轟音が響き渡り、次いでのストレートでさらに大きな音と共に、剣の先で地面をがりがりと削り取りながら男は大きく後退する。
「うむうむ、迷いなく逃げなかったのは良い判断じゃ」
「逃げる暇なんてッ!」
もし僅かでも逃げようと力を抜いていたら、殴られた瞬間に吹き飛んでいただろう。
その姿に満足し何度も拳を打ち込めば、その度にすさまじい音が響き、剣の後ろからはくぐもったうめき声が聞こえる。
「なんで素手で剣を殴れるんだ!」
「なぜとは、異なことを聞くのぉ」
「普通は剣を殴ったら痛いだろ」
「そんなことかえ理由は簡単じゃ、ワシの方が剣より丈夫じゃからの」
硬い物を殴れば痛く、柔らかい物は殴っても痛くない、ならば自分の方が丈夫であれば剣を殴ったところで痛くはない。
そんな理屈を語っていると、相手はこれ以上一方的に殴られてはと焦れたのか、殴りと殴りの間を縫って、雄たけびと共に剣を弾き上げるようにして反撃に転じてくるのだった……




