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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
女神の願いで皇国へ
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302手間

 縦横それぞれ十人程が並べる広さの部屋、その中でワシは今…はぁはぁと鼻息荒い人たちに囲まれている。

 無論変質者に囲まれているわけではなく、侍中や侍従たちに着替えさせられた着物の仕上げ中。


「帯はきつくございませんか?」


「大丈夫じゃ、それにしても着るのに手間がかかるのぉ…」


 今着せられているのは十二単の様に、色とりどりな着物を幾重にも重ね着したモノ。

 重ね着しているだけに着る手間も、普通の着物の倍以上だ。


 それだけにかなりの重量があるのだが、ワシにとってはさして問題でも無い。けれども何枚も重ね着しているので動きにくいことこの上ない。

 更に裾はふわりと広がりトレーンの様になっているので、下手に歩くと足にまとわり付き非常に歩きにくい。


 そんな着物の色は、一番下が濃紅で外にいくにしたがい淡く薄紅へと変化していく、大変かわいらしいグラデーションとなっている。

 たしか本家十二単は季節やなんやらで着物の色が厳密に決められていたと思うのだが、こちらでは特にそういうのはないのか侍中たちが好き勝手論議した結果のこの色らしい。


「あぁ、セルカ様…。大変お似合いでございます、お人形の様に可愛らしく大輪の花と共にいて尚、目を引きつけられるほど美しく咲き誇る、まさに至上の花にございます」


「うむ…しかし、これはこれで良いのじゃろうが、昨日の着物は結局どれも選ばんかったんじゃのぉ…」


「昨日ご試着なさった着物も、どれも人前に出て恥ずかしくないものではございます。 ですが、女皇陛下に拝謁し尚且つセルカ様の格に見合ったモノとなりますと、やはり重ね着しかなかろうという侍中、侍従一同の結論でございます」


「そうかえ…」


 着物の格というのは分からないが、見るからに豪華で着るのにも手間暇かけているこの十二単は、格を知らないながらも上のモノであると思える。

 文句があるとすれば、昨日昼から夕飯までずっと着せ替え人形と化していたのが、全て無駄になったことくらい…か…。


「それでは参りましょう」


「うむ」


 今、ワシがいるのは、お城の天守の一階層にあるワシらの様に着替えなどをするための控えの間。そこから同じく一階にある謁見の間へと移動する。

 と言っても二つの間は大して離れていないのですぐに到着し、幾匹もの狐がじゃれて遊ぶ姿が描かれた襖の前で待機している。


「おぉ、ねえや…きれいだね」


「そうじゃろう、そうじゃろう。 カルンも、よう似合っておるぞ」


 先に待機していたカルンがワシの姿を見て、にっこりと笑いそつなく褒める。

 ワシはその言葉に鼻高々と胸を張り、黒の軍服姿に色々と紐やらなんやらと飾りを付けたカルンの姿を褒める。

 カルンは同年代の者からすればかなり大人びた見た目だが、流石に年齢からくる幼さは隠しきれず、礼式ばった軍服だと着られている印象は拭えないが、それはそれで好印象を与えるなかなかの美少年っぷりだ。


「ねえやのその格好だと、豪華な髪飾りとか似合いそうだけど…付けないの?」


「髪飾りじゃと…?」


 ワシはかなり着飾っているが髪には一切手を付けていない、化粧もせいぜい紅をさしただけだ。

 確かに王国では、着飾った服に見合った髪飾りを付けるのは常識とも言えるが、それはヒューマンの常識だ。


「小さな飾りであれば兎も角、カルンお主の母がよくしておるような豪奢なものなぞ付けたら」


「付けたら?」


「うるそうてかなわん」


「あぁ……」


 ワシの言葉に理由を察したのか、なるほどとカルンが頷く。

 ワシら獣人にとって、豪奢な髪飾りをするというのは、耳元に鈴を沢山付けるようなもの。

 別に綺麗な髪飾りに興味がないという訳でもないのだが、幾ら綺麗でもジャラジャラと五月蝿いのは嫌だ、という至極何とも言えない理由から好まないのだ。


「セルカ様、王太子様、間もなく女皇陛下がご臨席になりますので中でお待ち下さい」


「うむ」


 スズシロの言葉を合図に音もなくスッと開かれた襖の奥は、横は十名ほど、縦は三十名ほど入れる細長い部屋。

 その左右の壁際に侍中たちがずらりと座り待ち構えていた。そして部屋の最奥、女皇が来るであろう場所は一段床が高くなりさらに追加で畳が置かれもう一段高くなっている。

 何と表現すればよいのだろう、まさにお殿様が出てきても場違いではない、そんな感じのする部屋だ。


「ここでお座りになり、しばしお待ち下さい」


 部屋の奥へと進み、スズシロに指示された場所でスッと着物裾を押さえながら正座する。

 カルンはまだ正座は出来ないので、何とか皇都に来るまでの練習で出来るようになった胡座をかく。

 指示をしたスズシロは侍中の列の先頭へと行き、そのまま教本にでも載せれそうな綺麗な所作で正座をしている。


「ミズク女皇陛下のお成りぃ」


 謁見の間に入り、そろそろ鼻の頭でも掻いていいかなといった頃合いに、スズシロが声を張り上げ女皇の臨席を告げる。

 文字通りスズシロの言葉を合図に上手より、しゃなりしゃなりと入ってきた女皇。

 ワシの重ね着より随分と数は少ないが、花色に金糸で花の刺繍が施された着物を幾重にも着ている。

 そんな彼女の姿は白面金毛の…ワシの娘ライラ以外では初めて見る狐の獣人だった…。

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