3191手間
どの騎士が最近は人気だとか、あの騎士が最近婚約者が出来ただとか、試合内容には全く関係ない話を貴族の婦人方から一方的に聞かされているうちに、あっという間に騎士の部の決勝が執り行われることとなった。
その舞台に現れたのは、正しく役者のような礼装ほどではないものの、華美な服装に身を包んだ二人だ。
戦うのに邪魔な飾りはなく、一応は真面目に戦うつもりがあるのは分かるが、それにしても無駄に豪華すぎるのではないだろうか。
「あれは、なんじゃ?」
「今、一番人気のお二人でございます」
「ふむ? 一人は優勝者故にわかるが、もう一人は準優勝でも何でもない者のようじゃが」
「彼は前々回大会での優勝者でございます。前大会では御実家の事情で出場は出来ませんでしたが、あのお二人が大会に揃うと、常にあの二人で優勝を争うほどの飛びぬけた実力を持った方々ですので」
「なるほど、それは人気が出そうじゃ」
今まで嬉々としてワシに説明をしていた婦人方が、決勝の二人が出てきたとたんきゃあきゃあと騒ぎだし説明どころではなくなったので、代わりに接待の者が説明するが、ワシが聞きたいのはそれではない。
「しかし、ワシが聞きたいのはあの服装じゃ、明らかに今から戦おうとする者の服ではないと思うのじゃが」
「あれは…… 支援者のご希望でございます。以前、熱心に支援して頂いている方より、礼服で戦ってい姿を見たいとご要望がありまして。ですが礼服で戦わせるわけにもいかず、似せた服を作らせたところ一気に人気が出まして」
「なるほど、じゃからあのような服装という訳かえ。その割にはあの二人しか着ておらぬようじゃが?」
「それにつきましては、一部の者が服装の華美さを競うようになりまして、これでは何の大会か分からぬということで、刺繍はどの程度まで、礼服に似せたものを纏えるのは、優勝や準優勝などの実績を修めた者のみと定められましたので」
「ふむ」
最初は訓練服のような地味な、もちろん人前に出て恥ずかしくない奇麗な物であるが、それで大人しく戦っていたようなのだが、一部熱心な者がそこへ貴族が好きそうな派手な服装を望むようなモノを放り込むものだから、財力がある者は競って華美な物を作り出し、一時期なんの展覧会かと思うようなありさまだったという。
そこで流石にこれはまずいと思ったのか、大会用の服を作るのに規定を決め、今のように落ち着いた状況になったという。
「とはいえ一部の方々にその華やかさが受けましたので、実績のない者でもある程度の刺繍などは許されておりますが」
「なるほどのぉ、確かにその方が出る者のやる気にも繋がるし、観客からも分かりやすくて良さそうじゃな」
実績を上げた者のみが華美な服装を纏うことを許される、それは確かに出る者のやる気にも繋がるだろうが、一つ懸念点がある。
「しかし、騎士とはいえその財には差があるじゃろう。流石にアレを作るのに困窮しては、大会の意義が疑われるじゃろう」
「ご安心ください、余裕のない者には支援金より資金を出しておりますので、あれで困窮するようなことにはなりません」
「なればよいのじゃ」
騎士も貴族と言えど当然その財力はピンキリであるが、余裕がない者には支援金より補助金を捻出しているということなので、試合の内容とは関係ない服装で困窮することはないよう配慮していると、接待の者は誇らしげに言うが、その制度が出来る前に困窮した者が出たのだろうなと、黄色い大歓声の下で始まった試合を何とも言えぬ表情で眺めるのだった……




