3190手間
騎士たちの勝敗が決まれば、黄色い悲鳴と歓声が同時に上がり、試合の後に握手でもすれば先の二つを合わせたものよりも大きな黄色い断末魔が響き渡る。
「ようもここまで入れ込むことが出来るのぉ」
「ここまでくると、お相手がいる方々はその人が憐れに思えてきます」
「ははは、まぁ、彼らは顔が良いですから」
ワシと近侍の子らが見も知らぬ黄色い声をあげている者たちの、婚約者であったり夫を憐れんでいると、貴族の男一人がなにやら諦めたような口調で乾いた笑い声と共に端的にそのあきらめの理由を呟く。
まぁ、声援を送るだけならば、浮気なんかの不貞行為ではないのだから、彼らも諦めるしかないのだろうが。
「ふぅむ? 普通じゃと思うのじゃがの」
「えぇ、まぁ、王太子妃殿下からすればそうでしょうとも」
確かに今出場している騎士たちの顔は整ってはいると思うが、ではそれほど熱を上げるほどかと言われれば首を傾げる程度のものだ。
「近衛の方々は言うまでもなく、獣人は皆容姿が整っておりますし、何より王太子殿下は世の女性の憧れでございましたから」
「ほう? 過去形なのかえ」
「いえいえ、ご成婚が決まられた際はどれほどの女性が嘆いたことか、だったとすることで皆が心落ち着かせているのでございますよ」
「ふぅむ、クリスがそれほど評判だったとはのぉ」
今度は婦人が何やら呆れたような様子で、ワシの周りには顔が整っている人が多すぎるからと言う。
それよりも確かにクリスの顔はワシが見惚れるほどであるが、彼女が言うほど多くの者たちから懸想されているとは思わなんだ。
もちろんクリスは当時は公爵家の嫡男だったがそれ故に、容姿関係なく狙われているとは思っていたが、容姿だけでもそれほどとは。
「何より獣人の容姿は優れているというのは話で知っていましたが、王太子妃殿下や近侍の方々を見てなるほどと手を打つ方も多く、最近では獣人の方々を雇う者も多いと聞きます」
「そうなのかえ、まぁ皆が職にあぶれぬようになるなればよい事じゃが」
「もちろん、無体な事をする者は、少なくとも私の周りにはおりませんのでご安心ください」
「それは分かっておる、それに嫌と思えばさっさと逃げるじゃろうしな」
獣人の身体能力なら嫌と思えば簡単に逃げられるだろうと、彼女が懸念するような事にはまずならないだろうから安心するように言うのだった……




