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とにもかくにも、人々の目に自分たちの成果というものが分かりやすい形で示されるようになったため、兵士たちの士気が上がり、更には同じだけ人々から注目されるようになったために、普段から素行も良くなったようだ。
だからだろう、やはり観客たちの声援は先ほどまでの傭兵などの流れの者や、地元であっても素人同然の者が出場していた一般の部よりも大きく、もちろんその試合内容もあったのだろうが、これが本来の盛り上がりかと感心する。
「ふむ、やはり皆似たような戦い方ではあるが、見ていてこちらの方が面白いのぉ」
「布を巻いているとはいえ、普通の剣を使っているようですし、全力でとはいかないのでしょうが、先程までよりも技量が高いのが分かりますね」
同じ訓練を受けているのだから、兵士たちの基本は皆一緒だ、しかし剣を多用したり逆に盾を多用したりと、人によって戦い方の好みが変わっており、一般の部の最初の試合より圧倒的に見ごたえがあるとワシと近侍の子らの意見は一致する。
試合は進み、ついにシード権を得ていた準優勝の選手が出てくると先ほどまでよりも会場は一気に盛り上がる。
「ほほう、あの選手は人気なのかえ」
「はい、王太子妃殿下。あの者は前回大会の決勝にて、実に良い戦いを繰り広げまして、惜しくも敗れましたが普段からの素行も良く庶民に非常に人気なので御座います」
「なるほどのぉ」
兵士の部と騎士の部では、前回優勝者は出場を義務付けられているので、彼としては前大会の雪辱を晴らしたいといった所か。
それにしても接待の者が惜しくもと熱を入れて話すだけあって、足やフェイントを上手く使ってよく動き相手を翻弄している。
「見え見えのフェイントであるが、ふむ、一対一なれば無視するわけにもいかぬからのぉ」
「こんな上から人の戦いというものを見たことは殆どありませんでしたが、こう見ると戦い方というのがよく分かります」
「王太子妃殿下は、あの者が何をしているのか、見えていらっしゃるのですか?」
「うむ、良く見えておるぞ。わずかに剣先をぶらしたり、盾をずらして隙を見せたりとのぉ。実に素直で分かりやすい挑発じゃ」
安全の為にこの貴賓席は他の観客はもとより、選手たちからも距離があるので、ヒューマンの視力ではよく見えないのも致し方ない。
だからだろう、ワシの言葉に思わずといった様子でやや興奮した面持ちの貴族がワシに話しかけてきた。
「しかし、ふむ。相手も引っかかりすぎではないかのぉ」
「一対一では、その緊張感も格別でしょうし、動きが良く見えすぎてしまうのではないでしょうか」
「なるほど? ふぅむ、そういったのはワシには分からぬからのぉ」
「王太子妃殿下のような方でも、戦いで分からないことが?」
「戦い方の工夫なぞワシには必要ないからの、当然そこの機微というのは使わないから分からぬ」
必要もなくそれを警戒する意味もなければ、それを理解するというのは難しいと聞いてきた貴族に軽く答えるのだった……




