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フェイントであっても突きはルールで使えないからか、必然すべて切り払いによるモノばかりになり、見た目は派手だが実に単調な試合展開が続く。
せっかくの円盾も使うことなく、愚直に剣を撃ちあわせているものだから実に退屈だ。
それでも武闘大会でもなければ、誰かが戦っているのを見ることがないのであろう者たちは、実に盛り上がっているようだから良いのだろうが。
「これは決着が暫くつかなければどうなるのかえ」
「審判の判断次第ではありますが、あまりにも消極的であった場合は失格になることもございます」
「ふむ。ではあれは両者消極的ではないのかえ?」
二人とも数合打ち合っては離れ、また打ち合っては離れを繰り返しており、見た目は確かに実力伯仲の者が戦っているように見えるやもしれないが、同じことを繰り返しているだけなので、ワシらからすれば消極的と断じてもいいほどだ。
相手の隙を伺うでもなし、一か八か円盾で剣を弾いてなどということもなく、これでは素振りや打ち込み稽古と何ら変わりない。
ワシが段々と不機嫌になっていくのが分かったのか、接待係がそれに合わせて青ざめてゆくが、誰かが何かの行動を行う前にその原因に変化があった。
何度目かの打ち合いの際に、手がしびれたか痛めたでもしたのだろう、片方が剣を取り落とし、もう一人が決着はついたと言わんばかりにその首元に剣を当てる。
その瞬間、割れんばかりの歓声が上がり、不服そうにしているのはワシと近侍の子らだけのようだ。
「ふぅむ、素人の試合と思えば致し方ないかの」
「傭兵と言えど、戦う場がなければ素人同然でしょうしね」
ワシと近侍の子らで辛辣な評価を下していると、下では激闘を制したかのように感動的に握手を交わしお互いの健闘を称え次の試合の為に下がってゆく。
そして間をさほど開けることなく次の試合の選手が会場に現れ歓声があがる。
「なるほど、先の二人では誰も棄権なぞせんじゃろうと思っておったが……」
「確かに、あまり見慣れぬ者たちからすれば棄権するのも致し方ないでしょう」
現れたのは獣人ではあるが、その中でも獣の姿に近い種族で、しかも見た目が狼という凶悪な者だ。
さらにはその身の丈は見た目こそ、そこらの男よりも多少高い程度に見えるが、常に上半身が前に倒しているので、実際の背は二倍以上はあるだろう。
巨大な狼が立ち上がったかのような見た目の獣人が、そのうえで己の身の丈ほどもある巨大な剣を携えているのだ、なるほどこれは棄権する者が出てくるのも致し方ない。
「これは対する相手は可哀そうに思えるのぉ」
「彼が優勝で間違いないでしょうね」
「間違いなかろうな」
何せ彼の獣人の相手は、見た目こそ獣人と同じような背丈の大丈夫だが、同じ程度であるのならば純粋に獣人の方が強いのは当然なので、もし彼が獣人に勝とうと思うのならば技量で上回るしかないだろうと、会場の中央に向かう選手二人を眺めながら、ワシと近侍の子らはあれこれと試合展開の予想を立てるのだった……




