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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
女神の願いで皇国へ
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281手間

 ゴトゴトとゆっくり進む馬車の中から外を眺めると、立派な木々と周りを護衛する侍中たちが乗る馬だけが見える。

 外からは分からなかったが、中に入り窓があると分かると喜び勇んで開けてみたらひたすら木々の代わり映えのしない風景。


 初の馬車の中からの光景ということで、カルンは子供の様に喜んでいるのが…いや十三だしまだまだ子供か…とにかくそれだけが幸いである。

 それにしても、侍中たちは着物だというのに馬車の速度に合わせた常歩とはいえ何不自由なく馬に乗っているが、乗馬用の工夫が施された着物なのだろうか…。

 いや、地域どころか世界が違うのだからワシの知る着物とはたまたま似ているだけで、完全に別物という可能性も十分にあるが。


「それにしても、速度が遅いとはいえこの馬車は揺れが少ないのぉ」


「確かに…同じ馬車が何時でも乗れるといいんだけれど…」


「ん? どうしたのじゃ? こちらをじっと見つめて」


「ねえやの尻尾って、侍中の人たちみたいに頻繁に動かないぁと思って」


「なんじゃ、今更じゃのぉ…以前会うた、辺境伯の尻尾もよう動いておったろう」


「城にはねえや以外は獣人の人は居ないし、あのときはそんなことにまで気を回してる余裕が…」


「ワシの尻尾は大きい上に数もあるからのぉ…あまり振り回しても辺りが大変なことになるだけじゃからの」


 ワシの言葉を聞いてその場面を想像したのか、カルンは「確かに…」と呟いてしきりにうんうんと頷いている。


「それよりもじゃぁ」


「な…なに?」


「ワシのは別に良いのじゃが…あまり人の尻尾をじろじろ見るもんじゃないのじゃぞ」


「わ、わかった」


 余程ジロジロ見ていたのか、ぽりぽりと頬を掻いて目をそらし丁度その視線の先に窓があり、外には護衛の侍中の尻尾、それを見てギョッとしてからさらにフイと目を泳がせる姿に思わず笑みが漏れてしまう。

 別に獣人は尻尾がじろじろ見られるのが嫌だという訳でもない。もちろん嫌がる人もいるだろうがそれはそれ、問題は尻尾の位置である。


 ワシの様に上にピンと常に立っている尻尾を持つものはまず居ない、感情やらで一時的にピンと立つことはあるだろうが、大抵は楽な下の方に垂れている。

 そして尻尾と言うのは大体腰辺りから生えている、それが下に垂れていると…要するに本人は尻尾を見ているつもりでも他の人から見た場合はお尻を凝視しているように見えるのだ。


「でも、何でねえやの尻尾は良いの?」


「うむ? ワシの尻尾はじろじろ見んでも見えてしまうじゃろう? なれば一々気にかけては日が暮れてしまうというものじゃ」


「あぁ…なるほど、確かにねえやの尻尾はもふもふでつい目が行っちゃうもんね」


「そうじゃろう、そうじゃろう」


 王族すら虜にするワシの尻尾はやはり素晴らしい。毎朝毎晩お手入れをしている甲斐があるというもの。

 こちらに来たときは、爪に火を灯す思いで香石を使っていたが、こちらは獣人が多いおかげでその手の商品が充実している。

 けれどカルンも言っていたように、目に入るほど王城では獣人は働いていないからか、城に住み込みで働いている人に配られる日用品にそのようなものはない。


 だが毛艶用の品が欲しいというワシの嘆きを、侍女から聞いた王がわざわざ市井の店から取り寄せてくれたのだ。

 しかし、市井の品と言っても王が取り寄せるのだ。そんじょそこらの一般品ではなかった。この時ばかりは王城勤め万歳と叫ぼうかと思った程。


 話が逸れたがワシの尻尾を見ていたとしても、後ろから見れば扇や孔雀の羽根の様に広がる尻尾しか見えないし。

 ワシの尻尾くらい立派であれば、誰もが尻尾以外を見てるとは疑いもしないだろうし、何よりワシとしてはもっと見て讃えよ! といった感じである。


 そうこうしていると、不意に御者側の小窓からコンコンとノックの音が聞こえてきた。


「どうしたのじゃ?」


「歓談中に申し訳ありません、セルカ様。本日はまだ日が高いのですが宿場に付きましたので」


「ほうそうかえ? んー? まだ宿場の近くというわけでも無さそうじゃが…」


 カルンと話していて気が付かなかったが、確かに喧騒が微かに聞こえるが窓から見える景色は、多少開けているが木々ばかりが目に入り町中でないことは確かだ。


「我が国では市中へは、どの様な貴人…たとえ女皇陛下でも馬車の乗り入れは禁止されておりまして、本来であれば籠か牛車に乗り換えていただくのが一番なのですが、生憎と唯の宿場町ですので…」


「ふむ、ワシは構わぬぞ。カルンも軍に席を置いておる。その程度の事で文句は言わぬじゃろうて…の?」


「あぁ、気にしないで欲しい」


「お心遣い感謝します」


 ワシとカルンが鷹揚に頷くと、ほっとした雰囲気が御者から感じられカタンと小気味よい音とともに小窓が閉められた。

 すると今度は馬車の扉の方からコンコンとノックの音が聞こえ、開けても良いかとの声が聞こえたので「うむ」と一言応えると扉が開き、扉の左右を抑える様にずらりと侍中がならんでいる様に内心ギョッとする。


「お疲れ様で御座います。ここから再度のご足労申し訳ありませんが、私共の不手際と皇国の法故ですので何卒ご寛容を…」


「うむ、先程もいうたが気にするでない。これも異国情緒というものであろう」


「ありがとうございます、それではご案内させていただきます」


 一人並びの中に紛れず頭を下げていた黒髪猫耳の侍中が、しゃなりと尻尾をくねらせワシらの先導をする。

 その先に見える町並みは、何と表現すればよいのだろう港で見た家々とも違い、こう…無双でも出来そうな建築様式の家ばかりとなっていた。


「のう、港とはまた随分と雰囲気が違うようなのじゃが…」


「これもお分かりになりますか…他国の方は見分けがつかない方が多いと言うのに、さすが巫女さまで御座います。我が国は元々は様々な種族の里が集まってできた国ですので、その場を治める領主によって建物の造りが違うのでございます。港は皇国直轄地ですので、女皇陛下の様式になっておりますが」


「なるほど…これは面白いのぉ」


 馬車は厩に預けてくるようで一度御者の人と馬車を護衛する一部の侍中の人と別れ、黒髪の侍中の人の案内で何とも不思議な感じにさせる町並みの中へと歩みを進めるのだった…。

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