29手間
本日は二話連続投稿です。
日記を読み進め、その内容に考えを巡らす。
「ふむ、簡単に言えばスライムでバイオハザードが発生した…とそういう事かの。千の巡りの内はと書いておったが、ここが千年以上前の施設なのか単に試算が甘かったのか…どっちにしろ途方も無いのぉ」
日記によれば、この施設でバイオハザードが発生したのち、封印放棄されたものの、偶然にも地脈が直接施設にぶつかったことで再稼働、それに伴い生き残っていたスライムが活動を再開し、今に至ると。
「何にせよ元凶のコアとスライムは破壊したのじゃし、もう大丈夫じゃろう」
そう言って日記をぱたりと閉じて腕輪に収納する。
「内容は断片的じゃが、此処の装置が復元されてしまえば、また同じ事が起きるとも限らぬ。それを知られるわけにもゆかぬし、ワシが墓まで持ってゆくのがよかろうの」
しっかり読んでおいて何だが、日記を他人に読まれるのもいい気分はしないじゃろうし。
「しかし、ここに日記があるという事はここで死んだか、或いは日記を置いて逃げたか…後者であればよいのぉ」
そう呟いて広場に戻るが、未だ応援のハンターは着いていないようだった。
魔晶石の捜索はあきらめたのか、具合悪そうに座っている三人を見てハタと日記の内容を思い出す。
作業中の事故で職員が亡くなったとあったが、コアを破壊した際のマナの暴風…あれが似たような現象ではないのか。
後日、その事故を反省して対策を施したと書いてあったが……その対策のお陰で助かったのだろうかと、今は亡き職員たちに感謝の念を捧げる。
「まだ辛いかの?」
「あぁ、あれほど高濃度のマナを浴びたのは初めてだしな、むしろ良く死んでないと世界樹に感謝している」
「てか、あれを一番近くでくらって平気なセルカちゃんに俺はびっくりだぜ」
アレックスは祈りをささげるようなポーズを取り、ジョーンズは肩をすくめてそう言ってくる。
インディは意識自体は回復したが、まだ起き上がれないのか青白い顔で寝転がっている。
「そうねぇ、インディも命に別状はないけど、さっさと戻って休ませたいわね」
そう言うサンドラも顔色はよくない。
「ふむ、あと一部屋あるがそこもワシだけで行ってくるかのぉ。この施設を鑑みるに、マナを集めることと確実に関係しとるじゃろうし」
「えぇ、そうね、今マナに不必要に触れるのは危ないし、そうしてくれると助かるわ」
お宝あったら教えろよ!というジョーンズの言葉を背に最後の北にある扉へ向かう。
その扉の看板には≪マナ収束実験室≫と書かれていた。
「ふむ、日記によれば恐らくここにはアレがあるはずじゃの」
扉を開け中に入ると、照らし出された部屋の中央に台形の如何にもといった形の台座に、柄も鍔も刀身もすべて真っ白な肉厚な両刃の剣が突き刺さっていた。
意外なことにほかに物はなく、その剣だけのための部屋のようだ。
「これが日記にあったマナ収束放射装置エクスカリバーかのぅ、しかし確実にこれを作ったやつは…」
何はともあれ、台座に突き刺さった剣と言えばやることは一つしかなかろうと。
剣に近づき思いっきり引っ張るがびくともしない。
「んぎぎぎぎ!エクスッ!カリバーはっ!選定のっ!剣!ではっなかろうっ!」
はぁはぁと肩で息をしつつ、どうしたもんかと考えるがはたと、魔手ではどうだろうと試しに触れてみた瞬間。
「なっなんじゃこれは!目がぁ目がぁ!」
突然の閃光に思わず左手で両目をふさぐ。指の隙間から漏れる光が収まり、もう大丈夫だろうと目を開ければ、
剣の姿はそこにはなく、剣があったはずの場所には、全身真っ白で細長い胴体に短い手足、まるっこいが角度によってはきりっとしたように見える黒目、まるい耳、細長い尻尾の先は墨をつけたようにそこだけ黒い生き物。
「オコ……ジョ…?」
思わず首をコテンとかしげると、オコジョも真似しするように首をコテンと傾げ。
「コン?」
「くあっかわっ、てか鳴き声は狐かえ!」
確かオコジョの鳴き声は、チチッとかキュキュッとかそんなんだった気がすると考えていると。
コン!と一鳴きしてこちらに駆け寄ってくる。
敵意もなさそうだし、大丈夫そうだと魔手を消し右手を差し出す。
するする右手を登ってきて、くすぐったさを我慢していると右肩あたりで止まり宝珠の辺りをぽんぽんと叩く。
「なんじゃ?そこが気になるのかえ?」
「コン!」
「まぁ、かじるでないぞ?」
「コンコン!」
わかったとばかりに鳴くのでポンチョを収納すれば、びっくりしてオコジョが一度落ちた。今度は足を伝って右肩に登ってくる。
右肩に登ったオコジョはじっと宝珠を見つめていたが、宝珠にポンと前足を触れた次の瞬間またもや閃光が走る。
「ぬあ!また目が!」
先ほどの閃光より柔らかい光だったため、目を瞑る程度で大丈夫だったが恐る恐る目を開けると、
そこにオコジョの姿は無く、もしや合体したか?と思ったが、光に目を回したらしく足元でひっくり返っていた。
その姿に頬が緩むのを感じつつほっとして、光を放った宝珠を確認してみると。
今まで漆黒に緋色のオーラを纏っていた宝珠が、緋色の芯から外側に向け徐々に滲んだグラデーションの様な漆黒となっていた。
「お?おぉ?これはパワーアップとかいうやつかの!」
魔手を出してみれば、それは色自体は今までと同じ漆黒一色であったが、爪はより鋭くなり、血管の様だった物は直線的になっていた。
「うむ、なんとも言えんが力が漲るようじゃ」
特に不具合もないので魔手を戻し、いまだ目を回してるオコジョを拾い上げ三人の元に戻ることにする。
戻る途中、目を覚ましたオコジョが頭の上に移動し耳の間に収まってしまう。
髪の色とオコジョの体毛の色が近いせいで、遠目から見たらこの世界にあるかどうか知らないが、まるでちょんまげのようにも見える。
三人のもとに戻ると、ジョーンズが目ざとく頭の上のオコジョを見つける。
「頭の上にのっけてるそりゃあなんだ?」
「奥の部屋には何も無かったんじゃがの、大方どこからか迷い込んでおったのだろう。こやつが居ったのじゃ」
「コン!」
「ふ~ん、お宝は無しか。で、ほかに何か分かったことでもあったか?」
「んむ、それなんじゃがの、どうもあのスライムが発生したせいでここを放棄したようじゃ。書いてあった話によればあのマザースライムが元凶のようじゃったし、もう大丈夫じゃろう」
「そうかそりゃよかった、んでその書いてあった本はどうしたんだ?」
「あぁ…その本なんじゃがの…一度読んだだけでボロボロになって崩れてもうた」
「げぇ、一度読んだだけでそうなるとか、どんだけ古いんだよ。もったいねー」
日記はまだ無事だし、おおよそ千年、千の巡りも前じゃとは流石に言えないので黙っていた。
とりあえずこれですべての部屋を回っただろうし、応援が来るまでゆっくり待つかとその場に座りオコジョと戯れる事にした。
まとめて一話にするつもりが日記が意外と長くなっちゃって連続投稿してみました。
一応日記を読まなくても大筋は大丈夫なよう、心がけてみましたが。
フレーバーテキスト的な何かな、かゆうま日記




