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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
第一章 女神の願いを叶えよう?
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研究員の日記

二話連続投稿です。


[三期/初の月/一日]

 我々は今日遂に成功した。

 魔石とも晶石とも違う、第三のマナの結晶体を人工的に作り出すことに成功したのだ。

 このマナ結晶体は驚くべきことに、魔石のような出力の安定性と、晶石のマナ蓄積量を兼ね備えた素晴らしいものだった。

 我々はこの結晶体を、魔石と晶石の両方を兼ね備えたものという意味を込め、魔晶石と呼ぶことにする。


[初の月/十二日]

 今日、コアの結晶を晶石から魔晶石に変える際、事故でマナ嵐が発生したらしい。

 お陰で資料室に籠っていた私は今日一日ここで待機だ、誰だこんな欠陥設計した奴は。

 幸い仮眠室もトイレもそこにあるから大丈夫だが。

 実験室に閉じ込められた奴は災難だなあ。そこには機械しかない。


[初の月/十三日]

 昨日の事故で七名の職員が巻き込まれ、うち三名が死亡した。

 一名はほぼ即死、残り二名は今日亡くなったらしい。

 残りの四名は今のところ生きているが、意識不明の昏睡状態のようだ。

 親しい知人でないとはいえ、同僚が死ぬのは悲しい。

 彼らのためにも何かを必ず成し遂げねば。


[初の月/十四日]

 事故で亡くなった職員の葬儀が今日執り行われた。

 更に一人葬儀までの間に亡くなって、四名の合同葬儀だ。

 教会の神官が居ないため、代わりに所長が葬儀の神官役をやっていた。

 『オキョウ』という、所長の故郷に伝わるらしい穢れ払いの祝詞を唱えていた。

 彼らが無事、世界樹の御許へ辿り着けますよう。


[初の月/十七日]

 残りの三名がやっと目を覚ました。命に別状は無いそうだ。

 とはいえ後遺症が残ってるらしいので、街に送り返されることになった。

 研究ができないことを悔しがっていたが、命があるからこそ世界樹の下へ行けるのだ。


[中の月/三日]

 実験室でスライムが発生した。成長途中の魔晶石を核に誕生したようだ。

 宝珠がついてないから、所詮は魔獣止まりだ。宝珠持ちの職員によって即座に駆除された。


[中の月/六日]

 魔晶石の新たな特性が判った。人為的にマナを供給すれば魔石も晶石もマナを蓄積するが、

 こいつは自身が周辺からマナを吸収するという特性を持っているようだ。

 道理で集積量が予測より多いわけだ、計算違いでは無かったようだ。


[末の月/二日]

 魔晶石の特性に合わせたコアユニットの大改修が完了した。

 これで集積効率が大幅に上がるはずだ。

 前回の事故の反省を生かして、壁面に魔晶石を大量に配置した。

 これで救助に行けるようになるまでの時間を大幅に短縮することができる。

 事故が発生したとき資料室や実験室に閉じ込められる欠陥設計はそのままだが。

 大改修のついでとばかりに実験室にトイレが設置されたくらいか。


[末の月/四日]

 実験室のトイレからスライムが出てきた。

 出来たばかりだというのに使用禁止となった。

 今度のスライムは魔物だったが、新設計の魔具の実験体になってもらった。

 魔晶石を核にしたことで大幅に出力が上がっている。これは素晴らしい。

 魔晶石の特性のおかげで、消費量が少ない魔具であれば魔石や晶石を交換する手間もない。

 所長の指示で、今後はこれの研究に集中するようだ。


[一期/中の月/六日]

 研究に夢中になってつい日記の存在を忘れてしまっていた。

 あれから研究もだいぶ進み、魔具の小型化の目途もついてきた。

 実験と趣味も兼ね、この日記のブックカバーに保存の魔術をかけ続ける魔具を装着した。


[中の月/十三日]

 我々の研究、その集大成の一つといっても過言ではない。

 マナ収束放射装置が完成した。所長はこれをエクスカリバーと呼んでいた。

 なんでも、所長の好きな物語に出てくる光を集めて放つ剣の名前らしい。

 意外と所長はロマンチストだったようだ。


[中の月/二十日]

 スライムが頻繁に出現するようになった。

 トイレなどから良く出現するから、水路にでも巣が出来たのか?

 どれもこれも魔物化している。魔石が労せず手に入るのは有り難いが…。

 エクスカリバーの量産軽量タイプのマナ収束放射装置が完成していたのは僥倖だった。

 例によってこれを所長命名のカリバーンと呼ぶ事になった。

 カリバーンのお陰で、今のところ研究員に死傷者はいない。


[末の月/三日]

 やばい、巣を作ったとかそんなんじゃない。

 コアの魔晶石を核にスライムが生まれていたようだ。

 どうやらこいつがスライムを産んでいたらしい。

 最近、集積量が極端に減ってきたから調べに来たらこれだ。


[末の月/四日]

 スライム退治に行った内の五名が食われた。

 二人生き残ったが、魔法が得意で後ろから撃っていたから助かったそうだ。

 そいつらの話によれば、カリバーンで攻撃しても即座に回復し、

 厄介なことにスライムを生み出し、それを砲弾にしてくるらしい。

 集積装置で集めたマナを利用しているのか?


[末の月/五日]

 まずいことになった。

 カリバーンがダメならエクスカリバーでと思ったが、

 運の悪いことに、エクスカリバーは先日の実験でマナをほとんど使い果たして再充填中だ。

 さらにはクソスライムがマナを横取りしてるせいで遅々として進まない、クソが!


[末の月/六日]

 くそ!所長が食われた。

 所長は研究者としても優れていたが、戦士としても優れていた。

 その所長が食われた、畜生!


[末の月/十三日]

 あれから何人も食われた。

 この施設を封印する事が決定された。


[末の月/十四日]

 封印するにあたり地脈からの接続をカットする事に成功した。

 もともと無理やり接続してただけだし、周りに影響はないだろう。

 接続がなければ、コアユニット周辺はマナの空白地帯だ。

 一体どれだけかかるかわからないが、クソスライムは餓死するだろう、ざまぁみやがれ。

 地脈が直接あのコアユニット付近にぶつかるなんて事があれば巡りが悪いと言うしかないが、

 試算によれば最低でも、千の巡りの内は大丈夫なはずだ。


[末の月/十七日]

 明日、私が実験室の始末をすることになった。

 それには忌々しいスライムの横を通らねばならない。

 コアに近寄らなければ危害を加えてこないから外周を通れば大丈夫。

 そうわかってはいるが気が重い。

 誰かに押し付けたいが、所長がいない今となっては、開錠の魔術を使えるのは私と副所長だけだ。

 資格がないから誰かに教えることも不可能だ。

 もうねよう。




かゆ…

  うま…

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