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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
女神の願いで学校へ?
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259手間

登場人物の一人、ヴァイスの名前をウィルヘルムへと変更しました。

 軍学校の教室と言うのは大体四、五十人ほどは入りそうな大きさ部屋に、教壇を一番下としてそこから階段状に長い机と椅子が置かれている形となっている。

 この教室は二つに分かれており、王軍と私軍は別々に講義を受けている。なにせ奴らは平民とは一緒に講義を受けれない等と宣うのだから仕方がない。

 どちらにせよ一つの教室で受けようとしたら、みっちりと人を詰め込まないといけないので問題ないと言えばそうなのだが。


 お蔭で侯爵家の息がかかった子弟の接触も殆ど無い。なにせ内心どう思っていようともカルンは王子なのでおいそれと手は出せない。

 ワシにちょっかいを出そうにも後ろ盾に王と神殿が存在し、武威も脳筋どもの尊い犠牲で示されている。

 さらには一緒に訓練しているだけといっても、対外的に見れば辺境伯家の者とも親しくしている。


 貴族連中からすれば恐ろしくて手が出せない状況だろう。野心があろうとも何も自分の足元を崩してまで、後が無いわけでも無いのに賭けに出るわけがない。

 王子に手を出せば不敬罪、下手をすれば叛意ありと一族郎党何かしらの罰が下る。


 だったらとワシに手を出せば返り討ちは必至、例え向こうが不敬だと言おうともここは軍、訓練だと言い張ればいいしそもそも不敬罪には当たらない。

 なにせ私軍に居る貴族の子弟は、親兄弟が爵位を持っているだけで本人たちには何の権威もない、貴族の家族と言うだけで身分的には平民と何ら変わりないのだ。


 そんな話はひとまず脇に置いておいて、現在受けている講義は戦争に使用される魔導器に関して。

 ラ・ヴィエール王国で使用されるのは槍、大剣、盾の三種類。

 槍を使用するのは将校などの馬に乗って戦う人たち、要するに騎兵装備だ。騎兵槍ほどの重量は無いので万が一馬を失った場合でも歩兵としても戦えるし、魔導器故にマナを注ぐ事によって軽い重量による衝撃力の低さを補うことも出来る。

 大剣を利用するのは一般的な歩兵と冒険者たち、特に大剣は普及しており冒険者が好んで使用している。槍よりも最低限必要とされる技量が少ないのが人気の理由だ。

 最後に盾だがこれがちょっと特殊だ。盾と聞いて思い浮かぶような片手で扱えるような物ではなく、大の大人の体殆どをすっぽりと覆い隠す程の巨大な盾だ。

 これを掲げ矢や投石を防ぎながらジワジワと進むのが一般的な戦術らしい。盾の隙間から普通の槍を持った別の兵士がえいやっと突き刺したりなどもする。

 要するにかなり原始的な戦争が主流なのだ。人を殺傷できる様な魔法や銃が存在しないのだから、それが一番理にかなっていると言えるが。


「さて貴様らもこの程度は分かっているだろう、本題はここからだ」


 講師が教壇を両手でバンッと叩きながら、忌々しいと言わんばかりの表情で語りだすは隣国、聖ヴェルギリウス神国の魔導器。


「奴らは我々が使う三種に加え、独自の杖と呼ばれる物を使ってくる」


「ほう…杖…のぉ」


「私もそういうのがあるという程度は聞いたことはありますが、実際に目にする機会も無いですし、機密なのか父上も教えてはくれませんでした」


「ねえやでも知らない事があるのか」


「ワシの知らん事の方が多いじゃろうて」


 ワシの呟きに両隣に座っているウィルヘルムとカルンが反応してきた。

 幸い教室の真ん中あたりに陣取っているので、ワシらの会話が講師に聞きとがめられることは無く、そのまま説明を続けている。


「この杖ではあるが、我々が魔導と呼称する強力な魔法の使用を可能とする魔導器だ。これを利用し彼らは少人数で投石機と同等の効果を生み出している。油断ならぬ魔導器ではあるが、杖という名前の通り使用者は人の背丈より短いぐらいの杖を持っている。しかしこれはただの発動媒体でその本体は馬車ほどの大きさの魔導器である、故に発見は容易であり尚且つ馬車ほどの大きさの金属塊を動かしているにも等しいので確認できただけでもかなり高価であり、引くにも馬を何と六頭必要とする代物だ」


 そこまではいささか緊張感を孕んだ声だったのだが、そこから先の話は一転嘲りを多分に含んだ声音へと変わる。


「しかも、神国の奴らはこれを神の偉業だとか神罰の代行だなどとのたまい、本体や杖を無駄に豪華にしているせいで必要以上に用意するのに金が掛かり、昔から戦場に引っ張り出してきているにも関わらず性能は今の今まで一切変わっていない」


 道具というのは余程完成されている物でもない限り、使い続ける内に使い易いよう改良が施されていくものである。

 それがどれほど昔から存在するか知らないが、相対する者が変わってないと断言するとは、余程改良が難しいのかそれとも神のなんちゃらだからと放置しているのか…。

 どちらにせよ他国が作れていないということは、それなりに凄まじい代物なのだろう…けれども。


「ワシが居れば、そんなもの脅威足らんであろうのぉ…」


 講師のその後の講義を聞いても、精々投石機一、ニ台くらいの性能らしい。

 馬鹿にはしたものの、十分すぎるほどの脅威であると杖に対する戦い方などを続けて話しているが。

 マナを利用している限り、ワシにはその時点で脅威でも何でもない。早々に思考を講義から今日のカルンの訓練メニューへと移すのだった…。

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