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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
女神の願いでもう一度
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249手間

 書庫から出て、西陽が差し込む廊下を北宮へと歩いて行く。

 側室筆頭オフィータ・デアラブと出遭ったのは予想外だったが結局何もしてこなかった。それにあれ程たった一言に侮蔑を篭めれる様な人物なら、何があろうと良心は咎めないかもしれない。


 筆頭と評されているが、ただ単に側室の中で一番発言力が有るというだけで側室同士の仲は最悪。

 つまり余程追い詰められない限り皆で協力して等と言うことは無いだろう。ある程度に収まる位の反目であればそれもあったかもしれないが…。

 筆頭のオフィータの実家であるデアラブ家、次席のガヤリセ家ここは次男の母の実家、そして三男の母の実家で末席のボグルン家の三家は仲が悪い。

 シャクア曰く、出遭えば宝石で飾った腐敗臭のする罵詈雑言しか言い合わぬとはどれほどなのか…。


 そしてまた、この家名にもこの側室達の嫌われっぷりが現れている。

 王妃は必ずラ・ヴィエールの名と王位継承権をここでは意味するフォン戴く事になっている、それに対し側室は王の許可によってラ・ヴィエールだけは名乗る事を許される、本人が希望すれば実家の家名を名乗ることを許されてはいるが。

 国の名を冠する事を許可されておきながら、それを拒否するとは即ち叛逆の意図ありと取られても仕方ない。

 一応建前としては側室だし、本人の自由意志に任せるよと言う事なのだが…つまりそういう事である。


 何故王妃にも王位継承権が有るかというと、王の在位中に万が一があり立太子が居ない、まだ幼い等があった際次の王が即位するまで国王代理として立つためである。

 指揮官先頭とはよく言ったもので、この国の王は国同士の戦争の場合前線に立つのが慣わしなのでこのような対処策があるのだとか。


 つまりカルンは立太子こそまだなものの、王位継承権はあるのでカルン・フォン・ラ・ヴィエールがフルネームとなる。

 ちなみにウィルは王を意味するので、ウィルを名乗れるのは今のところエドワルドただ一人。


「ちょっとそこな獣人」


「ん?」


 さて、如何にあやつらがちょっかいを出してくるのかと思索しようとすれば、それを妨げるような声。

 ヒステリックなカウベルの金切り声、背後から声をかけられたので、尻尾でワシの姿が見えぬであろうからこれ幸いとばかりに思いっきり溜息をついてから振り返る。

 果たしてそこにはヒステリックな音に似つかわしい背の高いスレンダーな余計な脂が落ちきった年頃の女性が立っていた。端的にはやせっぽっちの不健康そうなおばちゃんである。


 流石に…と言うか当たり前ではあるのだが、見た目の年齢に見合った落ち着いた青のドレスは露出を限りなく押さえている。

 その代わりと言っては何だが、ふんだんにふわふわと布をこれでもかと重ね、なんとか痩身を誤魔化そうとしているようだが隠しようのない首や手首の細さと相まって、逆に痩身を強調しているようにも見える。

 細面のその顔は先立って遭ったDEBU同様不自然なまでに青白く、ドレスではなくボロでも着ていたら十中八九貴族とは思わないだろう程だ。

 細い目薄い唇、元からなのか心情からなのか僅かにつり上がった口角は軽薄そう。出来ることなら関わり合いたくない類の人種。


「ガセリヤ家の断り無くこの場に立つとは…家の名もたかが知れますわ」


「要件はそれだけかの…?」


 ガヤリセでは無く、ガセリヤ(・・・・)だったかと変な所に感心が向きつつ、言いがかりにしてもこうなんと言えばいいか…もっと良いのがあっただろとツッコミを入れたくなる言葉に隠すこと無く溜息をつく。


「なっ! 私を誰だと思って!!」


「今自分で名乗ったであろう、それ以外は知らぬ」


 相手にするのも面倒だとばかりにばっさり切り捨てれば顔を紅潮させ…うむ、元が青白いからほんの僅かに血色がよくなったようにしか見えない。


「私にそのような口を聞いて、ガセリヤが黙っては居ませんよ!」


「ワシは王にも変わらずこの口調であるし、別段遠慮はいらぬと言われておる…お主の家とやらは王家よりも偉いのかえ?」


 ここで王の名でなく実家を出す辺りたかが知れていると言うもの。ワシの口調は直せるものではないので王と王妃からもそのままで良いと許可をもらっている。

 その事をちょっと嫌味を交えて伝えれば、今にもハンカチを取り出して噛み締めそうな顔で震えている。


「ふんっ! 覚えておくことね」


「なにをじゃー?」


 わざと戯けて首を傾げてみれば、憤懣やる方ないとばかりにツカツカと踵を返し逃げ帰っていった。

 彼女が王の名を出さなかったのは信が無いということもあるが、それよりもこの国での側室の立ち位置に原因がある。


 王妃にはあるフォンがその名に無いことを見れば分かることだが、彼女たち側室には王位継承権がない。

 王と王妃に万が一があり王位を継ぐものが居ない場合でも、彼女たち側室には代理となる権利はない。

 この場合は宰相が一時的に代理となるのだ、そしてしかる後に王子の誰かが即位することとなる。

 ここでもし王子が一人も居ない場合、王が即位した際にフォンの名を返上した王の兄弟が王となるか、王の娘が降嫁した公爵家の子が王となる。


 そして何より重要なのは、この国において側室とは王の妻では無いのだ、言い方は悪いが要するに王妃の子に万が一があった場合の予備を用意するための保険。

 徹底的に嫌われている側室だが何故彼女たちがその地位に居るのかと言えば、もし何かの間違いで側室の子が王となれば外戚として権威を振るえる。

 家の方も侯爵より上になれぬとは言え、王の母の実家となればそれはもうという。故に実にアホらしい事だが、ちょっかいをかけてくることは確定事項なのである。


「とは言え…何かしてこねば此方も手が出せぬしのぉ…」


 カルンはまだまだ北宮から出ることは少ない、なれば積極的に狙われるのはワシになるのだが…。

 万が一ワシが側に居れなくなれば、まだまだマナを引き寄せる能力を制御できてないカルンは再度隔離されることになる。

 そうなれば後は彼らのやりたい放題…けれどもワシの後ろ盾は王と神殿というか国教そのもの。

 こちらには家族も居ないし、よくあるこいつを失いたくなければという脅しも通用しない。

 武によって排除しようものなら手痛い反撃は確定、毒も恐らく効きはすまい。


「うむ、何も問題は無さそうじゃな…」


 暫くは問題無さそうだと、足取り軽くせっかくだからあと一人出てこないかな等と考えてたが、結局自室に着くまでそれ以上の接触は何もなかったのであった…。

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