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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
女神の願いでもう一度
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246手間

 侍女に国王への渡りを頼み、その後はいつも通り赤子の世話をする。

 今や完全に離乳を果たし、離乳食の意味は硬いものを食べる練習のみとなった。

 この時期は歯もそれなりに生えて、結構痛かったりするのでちゃんと離乳してくれるのはありがたい。


 柔らかい動物の毛で作った歯ブラシで歯磨きを終え、今は歯固めを加えてすやすやお昼寝タイムだ。

 我ながら単純だとは思うのだが、一度泣いてスッキリすれば折角名前だけでもまた会いに来てくれたのだから。

 我が子にも負けぬ愛情で育てて見せようと、寝息をたて始めた背中を撫でて優しくベビーベッドへと降ろしそっとタオルケットをかける。


 やはりと言うか魔法に関する技術や造詣が殆ど無いせいか、この手の工業製品の品質はこちらの方が圧倒的に上だ。

 向こうに帰る手立てを見つけれたら、こう言う技術も持ち帰らないとな…等と考えていると渡りを付けに行った侍女が漸く帰ってきた。


「おぉ、どうじゃったか? 無事、言付けは出来たじゃろうか?」


「えぇ、もうすぐ此方に来られるそうですので、セルカ様のお部屋のソファーでお待ち下さい」


 侍女はそれだけ言うと「私は、お茶などをご用意しますので」と言って部屋から出ていった。

 ここはワシの寝室から直結した子供部屋、寝室経由で行った方が早いとは思うのだが。

 彼女はあくまでカルン付きの侍女、人様の寝室を通路代わりには出来ないと以前言っていた。例えワシ付きだったとしても主人の…とも言っていたが。


 それにしても、王自ら来るとはどういう事だろうか。確かにワシは権力なぞ知ったこっちゃないと言った態度ではある。

 それでも、今まで話がある時は全て王の書斎へ呼び立てられていた。それが今回に限って…あの侍女は一体何と言って渡りを付けたのだろうか…。


 ともあれ、来るというのならば待つだけと、ワシは遠慮なく寝室を通って居間へと向かう。

 すでにお茶の用意を済ませ、後はお湯を沸かすばかりとなっていた。

 流石に工業製品がこちらの方が進んでいるとは言え、まだまだコンロなどという便利な代物はない。

 未だに古き良き、と現用の物に言うのもなんだが釜を使用している。


 更にと言うならば、カカルニアの様に着火の魔具もないので火打ち石を使用か、若しくはこちらの人が魔法と呼ぶ法術で火をつけるしかない。

 そしてこんな所の侍女を任されているくらいだ。当然その辺りの心得もあるだろうが体内のマナとは即ち体力と言ってもいいほどのものだ。

 という訳で余計な体力を使わせるのも悪かろうと、法術でさっさとお湯をポットへと補充してやろうと席を立つ。


「では、茶の用意頼むのじゃ」


「え、あ…はい。えっとありがとうございます」


 唐突にポットの蓋を開け始めたワシの行動を訝しむ侍女を尻目に、ちょっと格好つけてパチンと指を鳴らしポットの中へとお湯を注ぎ込む。

 ポットの上に突如現れた水球から、ポットへとお湯が流れ落ち最後には水球がポチャンと納まる。

 それを呆気にとられていた侍女が、ワシの言葉で再起動し陶器製のポットの胴を触って適温かどうか確かめた後、先程まで呆気に取られていたのがウソのような流れる所作でお茶を用意していく。

 王に出されるお茶は、尽くかくあれといった見事なお茶を堪能しつつしばし。ポットの中のお湯も冷めきった頃にノックの音が部屋へと響く。


「セルカ様はこのままで」


「んむ」


 侍女が少し扉を開け、何やら外と幾つかの確認をするとサッと扉の横に控えて深々と腰を折る。するとそれを待っていたかのように、仰々しいとも言えるゆったりとした速度で扉が開く。

 そこには扉を開いたであろう兵士二人と、以前に神殿で見たシンプルな黒の上下とは違う将官が着ていそうな見事な金糸の刺繍が入った軍服に、フリンジ両肩に付いたマントを羽織ったエドワルドが堂々と部屋の中へと入ってきた。

 軍服を纏い、胸には綺羅びやかな勲章が幾つもぶら下がったその姿は、国王というよりも将軍や元帥と言った方がしっくりと来る見た目だ。


「セルカよ、余に話があると言うことだったが」


「んむ、まぁすぐに影響があるわけでは無いのじゃが、あの子の名前に付いて少し…のぉ」


 腰を上げ挨拶しようかと思った矢先に実直な軍服姿と同様、余計な挨拶なぞせず単刀直入に話題に入ってくる辺り、この人は王と言うより軍人気質なのだろうか。

 ここは王城つまり王の所有物なので、特に断りもせずどっかりとソファに座る姿はなるほど様になっている。

 そこでふと横を見れば、ふわりと広がるドレスを着た王妃も一緒にそこに居た。


「王の居処と言えど、女性の部屋にお一人で向かうのは色々ありますから」


「なるほどのぉ」


 ワシの視線に乗せた何故居るのかという疑問を感じ取ったのか、ドレス同様ふんわりと言葉遣いで答えを告げると優雅な所作で王の隣へと座った。


「まぁ貴様も座れ。それで…だ、名前に問題があるとはどういうことだ?」


「ふむ、問題と言っても起こる可能性は低いのじゃが、万が一という場合もあるでのぉ」


 王の言葉で再度ソファーに座ると、早速とばかりに話を進めてくる。


「万が一でも民に何事かあるのであれば、それを解決するのは王の仕事だ」


「然りじゃの。なに簡単な話じゃ、ワシの故郷ではカルンと言う名は重要な意味を持つのじゃよ」


「ほう」と呟き前のめりになりながら顎に手を当てる王の目は、まるで獲物を前にしたような感じさえして、その姿にそう言えば王様っぽい王様に、初めて会ったなぁ等と余計な事を考えるのだった…。

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