25手間
洞窟を抜けた先にあった地下峡谷。その崖際、大人一人が手を広げれば塞がる程度の幅しかない道を一列に並んで、峡谷の谷底にある川の上流へ向けて歩いている。
幸いなことに、スライムなどの魔物の類には遭遇せず、晶石のおかげで明るさも十分なので比較的安全に前には進めていた。
「しっかし、この谷はどこまで続いてんだ?向こうに渡れるような場所もないしよ」
「まぁまぁそう嘆くでない、探検はまだ始まったばかりじゃぞ」
先頭を歩くジョーンズがぼやくが、洞窟を抜けたら地下峡谷に地下の滝、滝が落ちた先の地底湖…とどこぞの考古学者の話を思い出しつつ鼻歌交じりに答えるが、ついハッとして、
「岩とか転がってこんよな…」
「見た感じ地盤はしっかりしてそうだし、大丈夫じゃないか?」
ついつい、あの話のお約束的な事を憂う呟きをしてしまったが、そんなことなど知る由もないアレックスに至極真っ当に返されてしまった。
それからまたしばらく歩いたのち、まるでここで休憩しろとばかりに道幅がちょっとした広場ほどになっている場所があったので、いったん休憩をとることにした。
好きなところに腰かけ各々水などを飲んでいると、アレックスがさて、この後どうしようかと言うので少し話し合うことにした。まずはジョーンズが口を開く。
「俺としては、もう戻ってもいいんじゃないかと思うぜ。ここまで来たがなんもねーしよ、ありがたい事だがスライムにも拠点を出てからは遭ってないし、この道はハズレなんじゃね?」
「ワシとしては進みたいの。時々谷底を覗いておったんじゃが、結構な数のスライムが流されとったし、この先に何かある気がするのじゃ」
「あぁ、セルカちゃんが谷底を覗いてはくすくす笑ってたのはそういう事だったのね… 私としても先に進むのは賛成ね。言葉に表しづらいのだけれど、この先のマナの感じが変なのよね…」
「んむ、この先から一層水音が激しく聞こえておるし、行き止まりにしろ何かがあるのは確実なのじゃ。一度そこまで行ってみて、帰るかどうか考えるのもよいと思うぞ」
「セルカの言う事も尤もだな。元々調査で来てるんだ、戻るのは何かを確認してからでも十分だろう」
アレックスがそう纏め、ジョーンズもわかったと同意したので、もうしばらく休憩してから奥に向かって出発した。
段々と水音の激しさとマナの濃度が上がっていく中、谷底を流れていくスライムをサンドラと二人でくすくすと笑いながら眺めたりしながら進んでいくと、遂には目の前に峡谷へと流れ落ちる滝が立ち塞がっていた。
「やっぱ行き止まりか、さすがにこれを登る訳にもいかねーし一旦帰るか?」
晶石の光に照らされ薄緑に光る水しぶきの幻想的な光景に、一言の感想も寄せずそうぼやくジョーンズをジト目で見やる。
確かに、非常に綺麗ですぐにでも観光名所にできそうなほどの絶景の中、ちょくちょく水と一緒に子牛ほどもあろうかというサイズのスライムが流れ落ちていくのは絶景を台無しにしてはいるが…。
道は滝の裏を通りUの字状に対岸をつなぐ形になっているようなので、せっかくだし滝の裏を見たいとアレックスに許可をもらって、また一人で滝のそばに行く。
スライムに気を付けるのよーとサンドラが言うので、手を振りわかったという旨を伝え滝に近づいていく。
「う~む、歩き詰めで火照った体に水しぶきが気持ちいいのじゃ、水も綺麗じゃし飲んでみたいところじゃが…スライムさえ居なければのぉ…」
嘆く端から落ちていくスライムが目に入り、深くため息をつく。
気を取り直し、さてとどんな絶景かの、と滝の裏側に回る。しかしそこには望んだ絶景などでは無く、滝に隠れるかの如く通路が続いていた。
「おーい、みな来てくれ、道があるのじゃ!」
そう叫ぶや皆が集まってくる。
「これは…確かに道が続いてる…」
「ええ、しかもただの道じゃないわね。明らかに人工的に作られた道だわ」
「ひょっとするとどころか大当たりだなこれは…」
そう口々に感想を言い合うその先は、岩で作られたブロックで壁や地面、天井を補強し壁には晶石を削り作られたであろう照明が等間隔に並ぶ回廊が続いているのだった。
遂に最奥!
回廊のその先には!




