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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
女神の願いでもう一度
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232手間

 指名依頼、それは読んで字の如く個人を指名した依頼。

 けれどもハンターや冒険者どちらにせよ、他の場所に移動していたり街から離れていたりで一所にいつまでも居ない場合が殆ど。

 なので、よっぽどの事でもない限りランクだったり技量だったり性別だったりを指定した、例えるなら条件検索した依頼なのが実状だ。


「これはワシ以外では受けれんということかの?」


「はい、一応私も出来ますが…」


「あぁ…うむ、厳しいじゃろうな…」


 依頼内容は子守だ…しかも乳母と書かれているので、対象は乳飲み子である可能性が高い。

 宝珠が条件であればハイエルフである彼女も当然該当するのだが、無表情で感情の無い声…赤ちゃんが怯えるに決まっている。


「しかしじゃ…内容が奇妙すぎる、何故なのか聞いてもよいかの?」


「もちろんお答えします」


 指名依頼は基本的に…いやほぼ全てが討伐や護衛でしかも高難易度だ。

 そして条件に引っかかるそれ相応の実力だけでなく、ギルドから指名依頼を回されるほどの信頼も必要となる。

 高難易度が殆ど故、詳しい内容を聞き断る事もできる。その場合は依頼内容などに対する守秘義務が課せられるが。


 しかし、この依頼は奇妙なのだ…まず目的が子守だ、子供だって出来るほど安全な内容。

 そして、何故登録して間もないワシに信用が必要である指名依頼が来たのか、怪しい怪しすぎる。


「依頼の子守ですが、まずこれは隠喩でも何でもなくそのままの意味です」


「ふむ、では何故そんなものが指名依頼として態々ワシに来たのじゃ?」


「そしてこの先ですが、依頼を受けても受けなくても一切を口外しないでください」


「わかったのじゃ」


 彼女の言葉に頷くと、機械的とも思える口調で彼女が今回の依頼の事を話し始める。


「対象の赤ん坊ですが、宝珠持ちです。そして何故あなたに指名が来たかという理由なのですが、この赤ん坊…宝珠持ちだからなのか周囲のマナが濃くなっているのです。なので一般の方では最悪死に至ってしまいます、ある程度マナに慣れている兵士や冒険者もすぐに体調を崩してしまうのです」


「ふむ。マナ中毒と言うやつじゃの、しかし宝珠持ちじゃからと言って周囲のマナが濃くなる等と言うことは無いはずじゃ、おそらくはその赤子の宝珠の能力じゃろうの」


「やはりそうですか…」


「それにしても宝珠持ちは街中でも一人も見んかったが、ワシに来るほどそんなに珍しいのかえ?」


「えぇ…私の知る限り一般の人にはまずありません。一部の血筋の人にだけ…それでも極稀にです」


「なるほどのぉ…、それにしても宝珠持ちでないと耐えれぬ程のマナ…のぉ。ふむ? ところでその赤子、その状態で乳は飲めておるのかえ?」


 誰も近づけないとなると赤子の世話は一体どうしているのだろうか…はたと気付いてしまえばまだ見ぬ赤子と言えど心配になってしまう。


「濃いマナにある程度耐えれる人が、体調が悪くなるギリギリまで粘って何とかお世話をしている状態ですが、赤ん坊が宝珠持ち故に何とか生きてるといった状態で、それもいつまで持つか…」


「ふぅむ…分かったのじゃ、そのような話を聞いては一人の母親としては見捨てれぬ。その依頼受けるのじゃ」


「ありがとうございます。では、明日の朝に――」


「む! 危険な状態なのじゃろう? なれば今すぐにでも」


 ガタンと机が揺れる程の勢いで立ち上がったワシを、彼女が手で制す。


「赤ん坊の…と言うよりはその親ですが、立場ある方なのですぐにという訳にもいかないのです。この後すぐに連絡し対応しますので明日の朝までお待ちを。本来であればこれでもかなり…いえ、異例の早さの対応ですので抑えてください」


「うぅ…む、分かったのじゃ」


「ではタグを、先程の依頼と今回の依頼の処理をします。それと今日はギルドの部屋でお休みください、朝に部屋に起こしに向かいますのでギルドから外へ出ないようにお願いします。その時に向かう場所なども説明しますので」


 既に用意していたのか、部屋の鍵を机の上に起きながらの説明にこくんと頷き、鍵とタグを交換するように受け渡す。


「それにしても随分と用心しておるのじゃのぉ」


「先程も言いましたが、立場ある方のご子息なので」


「なのに、ワシの様な素性もよく判らぬ者を使うのかえ?」


「それほどご子息を気にかけているということです。それに私は長いこと受付嬢として色んな人と接してきましたので、人を見る目は確かなのです」


 そこまで言い切ると用事は済んだとばかりに立ち上がり部屋から彼女は出ていった。休む為の部屋の場所は鍵に刻印されているから大丈夫だが、それほど急ぎのという事なのだろう。


「ふむ…立場あるなどと言っておったが……立場よりも子を優先する様な事をする者じゃし、そこまででもないかもしれんの…変に目をつけられても困るしのぉ」


 それよりもと依頼が記された紙を見てほくそ笑む、結局カイルとライラ以外は子を授かることは無かった…それがこう言う形であれ子育てに関われる事が少し嬉しい。


「村のあの子は元気かのぉ…おぉそうじゃ! 乳の出が良くなる法術でまた出るようになるか試してみるかの!」


 母親の乳と言うのは赤子に取ってはまさしく生命線。いまのところどういう形で授乳させるか分からないがもしワシが授乳できるのであれば手間はかなり減るだろう。

 さすがにこの部屋で法術を使うのはマズイので、自分の子でないにしろまた赤子を腕に抱けると軽やかな足取りで、貸し与えられた部屋へと向かうのだった…。

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[気になる点] 誤変換:置き 既に用意していたのか、部屋の鍵を机の上に起きながらの説明にこくんと頷き、
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