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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
女神の願いを新たな場所で
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222手間

 まだまだ造られたばかりだと主張するように真新しい家々、耐久性より速度だと示しているかのように適当にばらまかれた砂利道、それも踏み固められておらずこの村全てが新しい事を物語っている。

 ザッザッとこれから仕事に向かうのか、忙しなく歩く男たちの邪魔にならぬよう端を歩きながら村の中を見て回る。

 端を歩いているお蔭か新築の家から切り出した木材のよい香りが鼻孔をくすぐる。それを村の者に言ったら首を傾げられたので、既にヒューマンにとってはは嗅ぎ取れない程希薄なのであろう。


 村の隅まで行けばそこそこ大きな川が緩やかに流れ、その川面には切り出して枝葉を落としただけの丸太が、流されないよう上流と下流に柵が設けられたその間でぷかぷかと浮かんでいた。

 今はこの木材全てが村の発展に使われているが、今後はここを拠点に各地へと加工木材を送り出す予定になるそうだ。

 そして木を切り出すということは森があるということ。森とは即ち魔物のテリトリー。その為に冒険者をここに誘致し、専属となってくれる人を探しているとリヒャルトに聞かされた。


 もちろんワシは断ったがフリードリヒ達は誘致の条件に惹かれもう半ば腹を決めているそうだ、お陰で小角鬼(ゴブリン)達が移動する原因を調べる事に巻き込むのは容易だった。

 彼らが惹かれた条件それは家を与えるというもの…彼らによれば家を持つと言うのは男の憧れと言うものらしい、しかもそれが親から継がされたものでなく真新しいものなら尚更。

 男の憧れの対価は専属と言えば簡単だが、つまるところ此処に根を張れと…そういう事だ、根無し草はもう飽いたと溢すその顔は少し寂しそうだった。


 カカルニア…あの街の成長を見てきたからか、この村の行く末を見てみたい気もするが帰るという望みが断たれていない以上まだまだ何処かに根を張る訳にはいかない。

 そんな決意とは裏腹にぼうっと川面を眺めていると、上流から丸太を見事に乗りこなした男がぷかぷかと浮く木を追加して行く。


 フリードリヒ達は何か(・・)の調査に同行するがそれはあと二、三日ほどしてからにして欲しいとそういう事になっている。

 なにせワシとは天と地ほども体力に差がある上に、殆ど馬車に乗っていたワシと違い彼らはここまで歩きっぱなしだったのだから。

 それにその調査自体もギルドからの依頼という手を執るため、その調整にも時間がかかると…端的に言えば暇なのだ。


「あ、セルカさんここに居たんですね?」


「うむ?」


 どれほどそこでぼうっとしていただろうか、唐突に背後から声をかけられた。


「おぉ…お主らか。皆…ではないが揃ってどうしたのじゃ?」


「えぇ、ちょっと聞きたいことがありまして」


 振り返るとそこには護衛をした女性たちが、その中でもまだ子供が居ない組がそろって立っていた。


「ふむ? なんじゃ言うてみい」


「えぇ…っと、ここで話すのはちょっと…」


「んーむ、ではそうじゃのぉ…ワシが借りておる部屋で良いかの?」


「はい」


 この村に女性はワシを含め護衛で連れてきた彼女らしか居ない、つまるところ男共には聞かせたくない類の話を聞きたいと…。

 丁度良いことに出張所で借りてる部屋にはワシしかいない、フリードリヒ達は各自空き家を借りてそこに泊まっている。

 彼らの場合出張所に部屋が無いと言う訳ではなく、例の専属の件受けてくれるならそのままそこに住んでもいいよ…とそういう事なのだろう。


 彼女らを伴って出張所内の借りている部屋へと戻る。元々大人数で泊まることを想定しているのか中々に広く、寝台も四つ置かれている。

 そして中央にはまるで手水舎のようなワシの腰くらいまでの高さの、四角く切り出された石が置かれその上部中央は凹み灰が均されて入れられている。

 五徳の様なものも置かれている事だしおそらくは囲炉裏と似たものだろう。囲炉裏周辺の石は少し余裕を持ったスペースがあり、そこで食事もできそうだった。

 ただただ残念なのはこの部屋が板張りであるということだろう。卓囲炉裏と言うのもあるので囲炉裏自体は良いのだが、やはり囲炉裏には畳と思ってしまうのは仕方がない事だろう。


 夕食は囲炉裏を使うかなどと考えつつ彼女らを寝台へと座らせる。イスやテーブルはまだ運び込まれていないのか、それともそもそも置いてないのか。

 どちらにせよ直に床に座らせるわけにもいかないのでそうする他無い。幸い寝台は体格の大きい人を基準にしてるのか四人がそれなり余裕を持って座れるほど。


「して聞きたいこととはなんじゃろうかの? 此処にはワシ以外は泊まっておらぬし、ギルドの小僧も自分の仕事で今は手一杯じゃろうしの」


「えーっとそれは……」


 言外に誰も聞いてはおらぬと含ませれば、元冒険者の女性が恥ずかしそうにおずおずと口を開いた。


「それは…?」


「おっ男の人を喜ばせるにはどうしたらいいですかね!?」


 恥ずかしそうに口を開いた割に強い語気で言ってきたのと、周りも期待を篭めるかのようにじっとこちらを見つめてくるので、ほんの僅かではあるが身を反らしてしまった。

 見た目は十代前半か後半かと言った少女に聞く様なものでもないし、ワシもカルン以外男など知らぬし手練手管と言われても困る。


「ぐ、具体的にはどういうことかの…」


「具体的に…ですか…えーっと…そのぉ…夜の…えっと…赤ちゃん…欲しいですし…それに…疲れて帰ってくるあの人に喜んでほしいと…」


 確かにこれはあんな場所で話すわけにもいかないし、馬車の中で惚気けた時も子供が居たし避けていた話題だ…。


「ワ…ワシもじゃな…カルン以外男なぞ知らぬし偉そうな事を言えたもんではないのじゃが…一つ言えるのは男とは実に単純なもんじゃ…ぎゅっと胸を押し当てるように抱きついてじゃの、上目遣いで甘えればイチコロじゃ。少なくともカルンはそうじゃった…」


「なるほど…」


「あまりに相手が疲れている時は逆効果じゃがの。それとカルンは胸に顔を埋めれば元気になると言っておったの。正直さっぱりわからぬが…あとは…そうじゃの…うむ…なんじゃ…求めてくる要求を出来る限り従順にすることじゃの…お陰で二日ほど足腰立たぬことがしばしばあったが…」


 その日、夜遅くまでその部屋から黄色い悲鳴が絶えることは無かったとか…。

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