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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
女神の願いを新たな場所で
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221手間

 小角鬼(ゴブリン)の集団を一蹴した後、暫く距離を取って早いながらも野営を行った。

 女性陣の疲労が思ったよりもひどかったのと、リヒャルトの話によれば明日で着く距離との事だったので大事をとったのだ。

 慣れない馬車旅、更には連続して襲ってきた小角鬼(ゴブリン)達、そして仕舞いには直接見ては居ないもののフリードリヒのあの焦った声。

 それによる心身への疲労は如何程のものだったのか、野営の準備どころか馬車から降りることすら出来ないほど疲れ切っていた。

 元冒険者の彼女だけは疲れを見せてはいたものの、唯一普通に動くことが出来ていたが…。


 それにしても今思えば散発的に襲ってきていた小角鬼(ゴブリン)達は、あの集団の斥候か様子見だったのであろう。

 それが偶々にせよ何にせよ、今後似たような事があれば小角鬼(ゴブリン)の集団があると疑った方が良いといい教訓になった。


 はたしてその予想は当たっていたのであろう。開拓村までは途中イノシシの様な動物に出遭っただけで昼の休憩を挟み、腹ごなしも終わったかと思う頃に到着した。

 ちなみにイノシシはお昼になった。収納の腕輪というものがないのでどうしても長期の道程となると初めに日持ちのしないものを食べ後になるほど保存食ばかり。

 そんな中での生肉の出現にフリードリヒ達は野生に返っていった…なんだろう何処かで同じような奴らを見た気がする…。


 苦笑いを押し隠している間に馬車は人の背丈より少し高い柵で囲われた村の中に入り、その丁度中央にある広場で止まる。

 村はその中央の広場から十字に広がる道に沿ってぽつぽつと家が建っている片田舎の農村と言った雰囲気を醸し出している、どの家も真新しい事を除けば何処でも見れそうな風景だ。

 そんな風に村を見ながら暫く過ごしていると、ワシらの到着を知った村の男たちが広場へと集まってきた。


 そしてそんな彼らを見て飛び出したのは幌馬車の中で今だぐったりとしていた女性陣。まるで火の中に落とした木の実の様に先程までの疲れた姿は幻だったのかと思うほどの速度だった。

 集まってきた男達の内の幾人かと滂沱の涙を流しながら抱き合っている。そんな彼女たちを周りの男たちは微笑ましそうだったり羨ましそうだったり、中には嫉妬の視線で見つめていた。


 飛び出した女性陣に遅れること暫し、彼らの下に子供たちが駆けてゆくと、父親であろう二人の男は嬉しそうに子供を抱き上げる。

 赤子の父親は暫くその母親と抱き合っていたものの、その手の中に赤子が抱かれていないことに気付くとまさかと言った顔で母親を呆然と見ていたが、彼女がワシを指差すとほっとしたと同時に苦笑いの顔を見せた。

 なにせ赤子は何をそんなに気に入ったのか、ワシにしっかりとしがみつき離れようとしないのだ。


「なんかすまぬのぉ…」


「いえ…お陰で妻と思いっきり抱き合えましたから」


 彼の照れたようにはにかむその表情は、多くの女性に黄色い声を上げさせるに足るものだろう。ワシはその多くには含まれていないが。


「ほれお父さんじゃよー」


 しがみついているとは言っても所詮は赤子、引き剥がして彼がよく見えるようくるりと赤子の顔をそちらに向ければ嫌だとばかりに顔をそむけられてしまった。


「あはは…自分はこの子が生まれる前にこの村に来たので仕方ないですが…結構ショックですね…これ」


「であればこれから父親としてしっかりすればよかろう?」


 そう言って赤子をそのまま母親へと返す。赤子のうるうるとした目でこちらに手を伸ばす姿に思わず抱きしめたくなるが、その衝動をぐっと堪え向き直る。


「これで依頼は終わりかの?」


「えぇ、そうですね。まだ出張所色々と準備しないといけないので、報酬などは明日以降になりますが」


 言いながらリヒャルトは鎧姿の男二人に何やら手紙の様なものを持たせていた。

 その男たちは手紙を受け取ると素早く用意されていた馬に乗り込み、すぐさま村の外へと駆けていく。


「なんじゃ今のは?」


「彼らは街に、私達が無事に着いたという書簡を届けに行ったんですよ」


「なるほどのぉ」


「彼らが届けたら直ぐに次の人達が此方に向かう手はずになってます、私たちはその人達の為の先遣隊と言いますかこの村の無事を確認するついでに、彼女たちを連れてきたと言ったところですね」


「そうじゃったのか」


「とりあえずお疲れでしょうし出張所に案内を…」


 そう言って先へ進むリヒャルトの後を続きながら、さてどうやってフリードリヒ達を巻き込もうかと考えるのだった…。

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