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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
第一章 女神の願いを叶えよう?
23/3297

23手間

「………ゃん…ルカ…ん…セルカちゃん、ほら起きて起きて」


 呼ぶ声とゆさゆさを揺すられる感覚に目を覚ますと、すぐ目の前にサンドラの顔があった。


「んんぅ~、のわっ!おおお起きたのじゃ、とととりあえず出発じゃの?」


 突然目の前にお姉さんの顔があったので、どもりつつもそう返事を返せば。


「そうね、でも出発前にご飯にしましょ。朝に森の前で食べてから何も食べてないでしょ?」


「む、お昼か、もうそんな時間かの」


「大体そんなところね。もう用意もできてるし、食べてから出発しましょ」


 サンドラがそう言って向かった先では、インディがマグカップの様な形状をした火を噴いている魔具を使って五徳に置かれた鍋を火にかけ、その中からスープか何かをよそっているところだった。


 その匂いに釣られ、いそいそと近づけば剣を手入れしてたらしいアレックスとジョーンズも近づいてきた。

 インディかサンドラが用意していたのか、小さな木製のイスに腰かけ、受け取ったスープとパンを食べ始める。


 すでにこの拠点に自分達以外の姿はなく、少し前に拠点班と後続のハンターは、次の広場へ拠点を設営しに向かったようだ。

 ご飯を食べてる間、この洞窟の先には何があるんだろうという話になった。


「あの三又の道の先も晶石がびっしりだったし、こりゃ大鉱床に繋がってるんじゃないか?」


「あれだけのマナが充満してる地域だと何処かにマナ溜りがあってもおかしくない、気を付けて進まないとな」


 大量ボーナス確定だと喜ぶジョーンズと、マナ溜りと言う危険地帯を警戒するアレックスが対照的だ。

 マナ溜りとはその名の通り、地形などの要因でマナが留まり周囲よりも高濃度になっている場所の事らしい。


 万が一入り込んでも、息を浅くしたり息を止めていれば特に問題は無いらしいが、気づかずに入って息を思いっきり吸ってしまうと、一気にマナ中毒になり倒れてしまうから気を付けろ、と言われた。


 閉所だけでなく地上の森の中などでも発生し、不自然に晶石が生えている場所があればそこにマナが溜まってると言うのが判るが、元より晶石が生えている洞窟内では判らないので、通常はマナの濃度に反応して音を出す魔具を使うらしい…のだが。

 今持っている安物だと、これ以上に濃度が上がるとなると常時鳴りっぱなしになって役に立たないらしい。


 遺物の中には持っている者のマナ耐性に合わせた濃度で警告音を発するものも在るらしいが、正直そこまで行くとものすごく高価な為、マナの濃度は自分で気を付けて、他にお金を回したほうがいいそうだ。


 話している間にすっかり食べ終え、魔術で出した水で鍋を洗い、予め掘っておいたらしい穴にゴミを捨て埋めていると、調理道具はインディ個人の持ち物だったらしく、いつの間にか回収されていた。


「さて、さっさと出発して新しい拠点に急ごう。あの三又の道を最初に選ぶ権利をくれたんだが、急がねぇと勝手に決め始めるかもしれん」


 そうアレックスが言うので、それは一大事と心持ち速足で新たな拠点予定地に向かうのだった。

 半刻もかからず拠点班が設営してる広場に着いたころには、すでに設営は終わりテントや簡易的な調理場や鍛冶場すらも設置してあった。

 周りを見ていると、アレックスは足早に奥へと続く三又の道の前に立つ人達の処へ歩いて行き何やら話しかけていたので、少しこの拠点を見学することにした。


「おぉ、簡易拠点と思っとたが、ずいぶんと本格的じゃのぉ…」


 休憩所や仮眠室、治療所など看板が掲げられた複数のテントに、小さいとはいえ炉すらも備えた鍛冶場を見て思わずそう呟く。自分が寝てる間にも後続のハンターが来ていたのか、随分と人数も増えていた。


「そうでしょう?晶石鉱脈があると報告を受けたので、今後の採掘拠点にするため、急遽街に単純な調査装備以上のものを取りに行かせて、ちょうど先ほどそれが到着したのですよ」


 カツンカツンと何か創っている訳では無いだろうが、鍛冶場で槌を振り下ろす姿を、すごいのぉ、すごいのぉと覗いてると、後ろから急に声を掛けられ思わず耳がピンと立つほど驚いてしまった。


「おっと、すみませんセルカさん。楽しそうにしてたので声をかけるタイミングを計っていたのですが、挨拶くらいは…と思いましてね」


 振り返るとそこには、メガネを掛けた如何にも有能秘書という感じの、もしスーツが有るのであれば、確実にそれをチョイスしてるであろう雰囲気を持つ、ピシッっとした服装で中肉中背の壮年の男が立っていた。


「おぬしは誰じゃ?ワシの事を知ってるようじゃが?」


「これは失礼、挨拶をと言いつつ名乗ってませんでしたね。私はイアン、副ギルド長をしています。セルカさんは将来有望と聞いてます。ぜひお見知りおきを」


「んむ、知ってるようじゃがあえて名乗ろう、セルカじゃ!」


 両手を腰に当て、胸を張って応えると、イアンはふふっと柔らかく笑う。


「では、今回の調査での活躍を期待してますよ。取り纏め等が残ってますので、私はこれで失礼します」


 それではと言いイアンは去っていった。その背中を暫く見送っていたが、そろそろアレックスらの話も纏まっているであろうと三又の道入口へ向かう。

 しかし、まだ話は決まっていないようで、話し合いが尚も続きそうなので、もう少し拠点内を周ってようかと思ったところ、こちらを見つけたアレックスに手招きされた。


「まだ決まっておらんかったのかえ?」


「あぁ、三択だろ。中々難しくてな」


 他のハンターがこの子が例の…とか言うので、一通りアレックスに紹介された後。


「というわけで、セルカ。お前が決めてくれ」


「んんっ!ワシが決めるのかえ?」


「こういうのはビギナーズラックに任せようと思ってな。お前らはセルカが選んだ道以外の2つの何方かを選ぶ。それでいいだろ?」


 そうアレックスが聞けば、おう、とかいいぜ、とか納得しているようなので、ちょっとでも面白そうなところを選ぼうと中を覗き込める場所まで移動する。

 どの道もマナ苔がびっしりと敷き詰められ、晶石もさらに大きなものが生えているものの、実に代わり映えがないので、腕を組み目を閉じて考える。


「うん?なんじゃ今のは…ワシを呼んだかえ?」


 確かに何かに呼ばれたかのような気がして、振り返り聞くが誰も呼んでないという。


「決めたぞ!ワシはせっかくじゃから、この真ん中の道をえらぶのじゃ!うぅむ、これはひょっとしてひょっとすると面白いかもしれん…」


 呼ばれた気がした方向の洞窟を指さし、後半は誰にも聞こえないくらいの声で呟いた。






ギルド長より先に名乗る副ギルド長!

哀れなギルド長には次あった時にでも名乗ってもらおうかな…。

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