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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
女神の願いを新たな場所で
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215手間

 たっぷりと青空を目に染み込ませてからウィーガーを見たが、彼は未だに放心状態のままだった。

 尻尾は股の間に挟まり、立派な狼の耳はペタンとへたり込んでいる。

 可哀想にきっと怯えているのだろう。茶を勧める様な気軽さで群れと言っていいほど居た小角鬼(ゴブリン)が文字通り消えたのだ。


 正直ワシも驚いている、以前はこれほどの威力は無かった…精々爆発しないように出来るようになった程度。

 化生の類いは齢を重ねれば重ねるほど強くなると言うが……流石にワシはと思い自分の特徴を思い出す、九尾で不老で異形の腕、うむ見事までの妖。

 生きているだけでレベルアップする、そら恐ろしいほどのチートである。今後は暫く使ってないものの威力には十分注意せねば…。

 しかし、今はそんなことよりウィーガーだ。呆けから引き戻して何にそこまで驚いているのか問いたださねばならぬ。


「ほれ、いつまで呆けておる。さっさと起きぬか!」


「はっ! あぁ…さっきのは…魔法……か…?」


「流石に魔法は知っておったようじゃの」


 魔法の扱いがどうなっているかは分からないが、最低でも失われたとか知る者は居ない等という事では無いことに安堵する。


「あぁ…けど魔法と言っても精々女性が家事を楽にする程度のものしか…俺も火種と灯りの魔法位しか使えない」


「ふむ、それはまぁ、概ねマナが少ないせいじゃと思っておけば良いの」


 宝珠が無いのであればワシらの言う魔法と言うものが使えないのは道理である。魔法という上位のものがあるからこそ法術という下位のものの名前が出来るわけで。

 上位のものがなければ下位のものに、上位のものの名前が当てはまっていても不思議ではない。


 ワシらの基準で大雑把に言えば、体内のマナを使用するものが法術、宝珠を介して外部のマナを利用するものが魔法と別けられている。

 その基準に当てはめるとワシの『狐火』は体内のマナだけを利用するので魔法ではなく法術に当たる。威力だけ見れば魔法ではあるが…。

 その法術がどうやら魔法と呼ばれているのならワシの『狐火』も此方では魔法になるだろう。


「嬢ちゃんの一族は、もしかしてみんなこんな事出来るのか?」


「もちろん優秀な者が多かったのは確かじゃが皆が皆では無かったがの、しかし皆マナの量は優れておったのは確かじゃ」


 代が下る毎に人数が多くなっていたので全員を把握しているわけではないが、少なくとも公爵家の直系は皆優れた魔法や技を修めていた。

 宝珠持ちで無いものも中には居たが、それでもマナの量は常人よりも多く寿命も長かった。


「紹介してもらうことは…」


「無理じゃの」


「そうか…」


 心底残念そうに呟くウィーガーの背中に、アレックスの姿が何故か重なった。


「さて、また別の群れが来る前にさっさとこれを処理してしまうかの」


「あ…あぁ、そうだな。小角鬼(ゴブリン)の角は出来るだけ根本から切るんだが、硬いから切るときに滑って自分の手を…いや、余計な心配だったな」


「うん?」


「いや、なんでもない。小角鬼(ゴブリン)の魔石も心臓の近くにあるのは変わりない」


「そうか、では気をつけておくかの」


 シャムシールでは流石に大きすぎるのでナイフに持ち替え、まるで野菜の芽でも摘むかのように小角鬼(ゴブリン)の角をサクサクと収穫していく。

 小角鬼(ゴブリン)の魔石は豚鬼(オーク)のものに比べかなり小さく、形が歪なものが多い。


小角鬼(ゴブリン)の魔石は豚鬼(オーク)のに比べてかなり安いからな、正直数が狩れるなら角だけで大丈夫だ。小角鬼(ゴブリン)の魔石を態々集めるのは魔導器もまだ買えない新米がすることだしな」


「ほう、そうなのかえ。しかし、魔石は死体ごと放置してても大丈夫なものなのかの?」


「野ざらしじゃなきゃ大丈夫だな、燃やすか埋めるかそうしてりゃ大丈夫だ」


「ふむ、確かにこの数の魔石を集めるとなると手間じゃの。角だけ取って後は燃やすかのぉ」


「燃やすなら油を…と思ったがさっきの魔法で大丈夫か」


 ここらでは油は主に鯨油の様に海洋生物から取れるものを使用しているらしい。

 海に住む魔物との事なのだが、魔石も小さく食用にも適さない、しかしその身にたっぷりと油を溜め込んでいるらしく漁師の主な収入源だそうだ。

 なので油はそこまで高価な物では無いのだが、やはり節約できるところは節約したいというのが人情というもの。

 小角鬼(ゴブリン)の山はワシの『狐火』で灰も残らず消え去った。


「角は半々でいいかの?」


「うん? 何を言ってるんだ?」


「いや、手を出しておらぬとは言え辺りを警戒しておるようなもんじゃったしの」


「あー気持ちはありがたいがやめてくれ。この依頼で着いてく俺たちは一切新人から素材なんかを取らないってのが冒険者の間では昔からある決まりだ。報酬は依頼のものだけだからこそやりたがる奴が少ないんだが…もし決まりを破ったらギルドからはお咎めなんかは無いが仲間からは恥さらしとして嫌われるな」


「ふむ、ではお言葉に甘えるとするかのぉ…」


「本当なら何日も付いていって野営やら馬の手配やら繰り方を教えるんだが…」


「野営と繰り方であればお主らよりベテランじゃの、手配とやらだけ教えてくれぬかの?」


「手配つっても難しいもんじゃない、でかい街の入り口にある厩かギルドの派出所で頼んで金払うだけだ」


「ふむ、本来であればその依頼とやらはどのぐらいの期間やるのかえ?」


「んー大体一週間くらいか? よほどのアホでもない限りそんくらいあれば覚えるしな」


「ではその期間色々と教えてくれるかの? 主に冒険者の暗黙の了解やらこの辺りでの良い狩場なんかをの。割にあわぬのであればもっと短くても構わぬが」


「確かに依頼を受けたやつの判断で切り上げることも出来るが…きっちり期限まで付き合うぜ!」


 狩りの儲けにおいて素材の買取と言うのはかなりの割合を占める。依頼の報酬というのがどの位なものかはしらないが、彼がいくら紳士的とは言えそれで生活している以上何か怪しい。

 いや、彼の性根は悪くは無いのは少ないやり取りではあるが分かってはいる。だが何があるか聞いておいて損はない、今後ワシもこの依頼をやらねばならぬ可能性があるのだから。


「なんぞ期限が伸びれば追加報酬でもあるのかえ」


「一週間かかろうが一月かかろうが報酬は変わらないんだがな…この依頼の間に新米が狩った魔物の量、討伐報酬如何でご想像の通り追加報酬が貰えるんだよ。素材なんかが手に入らない代わりってやつだな」


「ほう、しかしそれでは意外と人気な依頼になりそうな気がするのじゃが?」


「いやいや、普通は新人でここまで倒せる奴なんか居ないって。さっき位の数だって一週間かかって倒せるかどうかってとこだろう。最初は一匹倒すのもやっとだからな、そうなりゃ俺達が助太刀して多少は討伐報酬が入るんだが、やっぱ数がなぁ…」


「なるほどのぉ…早々優秀なものも居らんというわけじゃな」


「そういうことだ」


 確かに出会える魔物の数次第であるが、追加報酬とやらの額しだいではあるがワシぐらい狩れるのであれば、多少は額が少なかろうが割に合わないということは無いであろう。


「さてと他にも居らんようじゃし今日は帰るかの」


「そうだな、こんだけ派手にやったら暫くは寄り付かないだろう、どうする明日もすぐ行くか?」


「ふーむ、そうじゃのぉ…うむ折角じゃし明日も行こうかの」


「分かった、ここも本来は狩りの時次第では一日しっかり休めと言う所だが…」


「この程度易い運動にもならぬの」


「全く殆ど動いてない俺より疲れてないんじゃないか…?」


「ワシはマナも多いが体力も多いからの!」


 とりあえずこれで一先ずの知識を手に入れる機会を得た。ウィーガーも適当に教えてついてくるだけでそれなりの報酬が手に入る。

 ワシだけが得をするのであれば良心が咎めたが、両得であれば憂いがないと大満足でその日は街へと帰るのだった…。

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