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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
女神の願いを新たな場所で
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213手間

 ギルドへと向かう暮れなずむ坂道を登る途中。

 ガラス窓に反射した陽光に目を細め後ろを振り返ると、オレンジ色に淡く染められた海を一直線に切り裂く赤い光。

 その光の元は今にも海へと溶けそうに揺らめき、白亜の城をまるで燃え盛るかのように紅く照らし出していた。


 そんな幻想的な風景の中でもうすぐ日が沈むからか、人の気配がまばらになった道の幾つかで、先に火が灯った不思議な槍を抱えた鎧姿の人が何人か歩いている。

 初めは夜警の人が出てきたのかと思ってその不思議な格好も相まって暫く眺めていると、時々立ち止まり建物の壁に火の点いた槍を近づけている。

 何事かと火を近づけたとこを見れば、強いとは言えないまでもそこに光が灯っており、決して放火された訳ではないのが分かる。


「なるほど、街灯があるのかえ」


 今いるところは大通りなのだが、それでももう既に人の気配は殆ど無く。

 それが安心を醸し出している訳ではないことを示している。


 治安が良いと言ってもやはり宵闇が迫れば、幾らでもその手の輩は沸いて出て来る。

 街灯も煌々と照らすほどの明るさはなく、精々気休め程度だそれでももちろん真っ暗よりは安心だが。

 幸いな事にこの世界一日が長いせいで夕焼けの時間も長い、街中を紅く塗りつぶした光景を暫く眺めていたい気分だがさっさと帰った方がが身のためだろう。


 ギルドに戻れば食事や素材の買取を丁度終えたのか、それなりの人数の人達と入り口ですれ違った。

 幾らゴロツキだろうとも流石に筋骨隆々の彼らを襲うような間抜けは居ないのだろう、彼らは宵闇近い街へと特に気負いもせずにあるきだしていた。


「食事はまだ出来るかの?」


「内容はお任せだけどいいかい?」


「うむ、ところで幾らかの?」


「二十n(ネル)だけど、あんたは昼間冒険者に登録した子だね? だったら半分の十n(ネル)だよ」


「わかったのじゃ」


 恰幅の良いまさに食堂のおばちゃんと言った雰囲気のおばちゃんが、愛嬌のある顔で答えてくれた。

 彼女に大銅貨を一枚渡しどうせ出てくるまでに時間がかかるだろうと、昼間は見なかった掲示板を眺めることにした。

 昼間はそれなりに見ている人が居たのだが、流石に今から依頼を受けようなんて酔狂な人は居ないのだろう。ワシ以外だれも見ていない。


「ふーむ、まるで手配書のようじゃのぉ…」


 質の悪い紙に同じ形式で依頼名、詳しい内容、報酬額、期限、依頼主、備考と書き込まれたものが、掲示板から飛び出たフックに無造作に幾つも刺されてぶら下がっている。


「ふむ、こっちは物騒な依頼…それでこっちは雑務系のもの…ほいでこっちはうーむ…街の便利屋のような依頼かぇ…それでこっちはふむ?」


 ある程度の区分で依頼内容が整理された一角、ここだけ紙が日に焼けたのか色が変色しているものが多く、よく見れば期限が書き込まれていない。


「その辺りは常設って言われてるやつだね、大体貼りっぱなしで依頼を受けるのに剥がさない奴、大体は薬草やらの採集だったりだね」


「ほう…そうじゃったのか、その辺りは討伐報酬やらとは違うのかの?」


「そっちは魔物と違って自然相手だからね、出来が悪い時には取り下げられたりするのさ。採りすぎてなくなっても困る、だからそこに無い時は薬草やらは採らないようにね」


「なるほど、それは良いことを聞いたのじゃ」


「それを知らない新人が結構怒られるからね、ま…よくやっちゃうことだからそこまで罰せられたりはしないんだけどね…新人は」


「気をつけておくのじゃ」


「さてと、はいおまたせ魚の煮込みとパンね」


 掲示板を眺めていると、後ろからスープ皿とパンを両手にもったおばちゃんがよく通る声で教えてくれた。

 近くの適当なテーブルにおばちゃんがそれを置いたので掲示板を見るのを止め、席に座って出された料理をスプーンで掬う。

 磯の香りが芳しいスープにパンを浸して食べるのは中々に堪らない。この世界では初めて食べた海魚とあって食べる手は皿が空になるまで止まらなかった。


「あんた美味しそうに食べてくれるねぇ、おかわりはどうだい?」


「いや、お腹いっぱいじゃ。ワシは少食じゃからのぉ」


「街のもんならそれでいいかもしれないけど、冒険者ならもっとしっかり食べないとダメだよー」


「忠告痛みいるが、ワシの場合それで大丈夫な体じゃからのぉ。ま、普通とは違うのじゃよ」


「獣人の女の子で冒険者になれたんだし、そりゃ普通じゃないだろうけどねぇ…」


「うむうむ、それにワシこう見えてお主より年上じゃからの?」


 孫…は流石にまだだろう子を見守るような目でワシを見ていたおばちゃんは、同じ目をまんまるにして驚いてる。


「獣人の女性は確かに羨ましいほど年取らないけど、流石にそれはないでしょ」


「いやいや、本当じゃよ。確か一番下の玄孫がそろそろ成人だったはずじゃ」


「やしゃご?」


「うむ、孫の孫じゃの。普通のヒューマンではそこまで生きるものはおらんじゃろうしのぉ」


 街を周ってわかったことだがこの街なのかそれとも此方全体なのか、宝珠持ちがハイエルフの受付嬢を除いて誰も居なかった。

 故にこの辺りのヒューマンの寿命は常識的な数だろう、所謂人間五十年というやつだ。

 腕試し的な意味で魔手を最近使っていなかったのだが、これは本格的に人前で使わないようにしたほうが良いかもしれない。


 宝珠という分かりやすい超常を引き起こすものがあったからこそ、あの異形の腕は受け入れられていたのだ。

 そうでない者達がアレを見ればどう考えるか、想像に難くない。


「えーっと、孫の孫…もしかして百とかその辺りかい?」


「いやワシの子らは皆寿命が長いからの、もっとじゃと思うのじゃ」


「はー人は見かけによらないって言うけどこれはちょっとねぇ…色んな人達を見てきたけどおばちゃんもビックリだよ」


「というわけじゃ、少食なのも見逃してくりゃれ」


「歳と少食は…あー…あぁ、おばあちゃんだから食細いの?」


「昔からじゃ!!」


 ぷんぷんとちょっと子供っぽく怒ってみれば、おばちゃんは苦笑いで謝ってきた。


「ま、暫く世話になると思うからよろしくの!」


「年寄りの暫くは長そうだねえ…」


「ははは、かもしれんのぉ」


 食器を片付けるおばちゃんに別れを告げ、この調子なら美味しいご飯に暫くありつけそうだとご機嫌でギルド内に借りた部屋へ帰るのだった…。

あけましておめでとう御座います。

本年もご贔屓のほどよろしくお願いします。

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