198手間
今の状態を一言で表すと…「どうしてこうなった」
ハンター視点で地下の状態などの意見が欲しい。
そう言われカルンが町長のいる屋敷まで衛兵隊長であるダーシュに連れられて出ていった。
なのでワシは対外的には一応愛玩奴隷という事になっているので宿で待っていた。
しかし、やはり三人だけで行ったからか全員の意見が欲しいと町長が言うので、後ほどワシも連れられていった。
ここまではいい…。
しかし…しかし、何故ワシがワシ一人が町長と対面しているのか…。
目の前には石を削り出し綺麗に磨き上げた椅子に座る男…。
胸元まである立派な顎髭を蓄え、酒樽を満たし筋肉で覆ったような胴体をはち切れそうな革鎧で包み、丸太のような手足はその一撃だけで岩をも砕きそうである。
床の高さが同じという点を除けば、その威厳も相まってまるで玉座に座るドワーフの王のようだ。
ふむ、ドワーフ王…じゃない、町長の身長はワシと同じか少し高いか…その横にはワシより少し背の低い、くりくりとした目が可愛らしい幼女が立っている。
娘か…それとも孫娘だろうか? ドワーフの寿命を考えれば曾孫、玄孫の可能性も…いや、ドワーフの子供はかなり出来にくいと聞くしやはり娘か。
町長とは似ても似つかぬ容姿に、本当に似なくてよかったなぁ…なんて考えていると町長が漸く口を開いた。
「今回は町に出た魔物、更には犯罪奴隷共の下に隠されていた隠し部屋の制圧ご苦労だった」
「ワシは、いざという時にご主人様の盾になる為に付いていっただけの奴隷じゃ」
「くくく、この俺の目をごまかせると思ったか?」
椅子の肘掛けに肘をつき手に顎を乗せた、良く様になっているポーズでそんな悪役見たいな事を突然町長が口に出す。
「あなた、お客人が困ってますよ」
「おぉ、すまんすまん一度言ってみたかったんだ」
剣呑な空気に、え? あれ? これもしかしてやばい? と一人混乱しているところころと鈴を転がしたような声で町長を諌める幼女。
幼女が口にした言葉の意味を理解すると、先程よりも目を丸くしてなんかおちゃらけた事を言ってる町長を無視し、幼女と町長を何度も見比べる。
「ドワーフの女を見るのは初めてか? みんなこんなだぞ、勿論妻が一番美人だが…しかし…お主本当に獣人か? カルンと言ったか、あの男と歳の頃は変わらぬと聞いたのだが、あり得んことだがドワーフとの間の子だと言われてもうっかり信じそうだ」
「ハイエルフですら知らぬ種じゃからの…」
「ふむ? いっつも寝てるからあいつら知らんことの方が多いぞ」
「そうなのかえ…」
確かに言われてみればハイエルフから聞いたことは全部あそこで起きた事と来た人の話だった。
それにしてもドワーフの女性って皆幼女な見た目なのか…なるほど、それでよく酒場でチヤホヤされたのか…。
「その容姿だとよほど町の奴らに持ち上げられたであろう?」
「うむ、何故ワシが良くしてもらえるかよくわからんのじゃったが、なるほど納得じゃ」
「あなた、話がそれてますよ」
「おぉ、そうだった。お主のことはダーシュとお主の男から聞いただけだ、勿論狩人共なんぞに教える気も無いし吹聴する気もない、此処に呼んだのはそれを伝えるためだ。お主の男伝手にでも良かったんだがそれでは信用できんだろ?」
「それは確かにありがたいのじゃが…どうしてじゃ?」
「狩人と言うかそれとつるんでる聖堂とか言う奴らが個人的に嫌いなだけだ、あ…俺が言ってたというのは他言無用でな、これで貸し借りなしだ」
「わかったのじゃ、それと他言無用ついでに何故嫌いなのか聞いても良いかの?」
ふむと町長が立派な顎髭を撫でつつ、どう話そうか話していいかと考えているのか目を閉じる。
「あなたダーシュからの話では恐らく分かっているのでは?」
「それもそうだな…」
妻の言葉に目を開いた町長はぽつりぽつりと喋り始めた。
「まずは…少し前の話からだが――」
町長が言うには元々はこの町の領主だった、もちろんそれは知っているというか分かっていたことだ。
西多領とは町一つを統める領主が集まって、お互いを助けるために徒党を組んでいたようなもの。
南や北の広大な領土とダンジョンを持つ領相手には、一つ一つ小さな領では交渉すら出来ないから…。
けれども独立独歩を守りいままでやってきた…しかし突然中央の領で、西多領を一つにまとめると言い出した奴がいたそうだ。
「勿論反対したさ、どっかに支配されるなんて嫌だからな。だがこの町は見ての通り麦を初め飯が手に入りにくい…そこにつけ入れられてな、町の住人の生活のためにも頷かざるを得なかった。支配されるのが嫌だなんて言うのはオレ個人の感情だ、そこまではそこまではよかった我慢できた――」
町長は悔しさ…というよりも憤怒を押し殺し教えてくれた。
つまりそこで出しゃばってきたのが聖堂というわけだ、ヒューマン至上主義を掲げる者たち。
この町に聖堂を建てその主、地下の男が言っていた聖堂枢機卿と言うらしいがそれに従え傅けと、お前らは出来損ないなのだから。
もちろんこれには町長どころか町のドワーフ達は元より、一緒に暮らしていたヒューマンも大激怒。
そんなのは要らない、無理に押し通すなら山奥に帰る、お前らには金輪際何も造ってやらないと叫んだそうだ。
それに困ったのは聖堂…ではなくそれを支援してた他の町の貴族たち、ドワーフの作る細工は金持ち連中に大人気。それが作られなくなるのは困る。
実は魔貨以外にも、各種貨幣を作る際に使う刻印の型を作っているのがドワーフ達なのだ。
当たり前だが、道具なので使い続けていると摩耗し使えなくなってしまう。
この型には貨幣の偽造防止にドワーフ独自の技術が使われている、なので元となる型はヒューマンでは再現不可能。
それを作ってくれないとなると、今は大丈夫…だが将来は? 既に末端まで貨幣流通が主となっているのに貨幣が作れないとなると経済が破綻してしまう。
ドワーフは長寿なのでヒューマンからしたら何代も前の失態でもつい昨日の事となってしまう。だから慌てた。
聖堂を抑えなんとかここに聖堂を置かず、何とかドワーフの機嫌をギリギリで損ねなかった。
だがそれでは腹の虫が収まらなかった聖堂が、ささいな嫌がらせとしてわざと此処に食料を持ってくる商人の護衛に素行の悪い狩人を付けるようにした。
そんな感じだ。だから聖堂が嫌いと…。
「ギルド支部が此処になくなったのもそれのせいだ。魔物も殆ど出ないし武具は独占で買い取るから輸出の護衛も独自に雇う必要はないだろ?ってな感じでな」
「それは…まぁ、ワシでも腹が立つのぉ…聖堂の者とは地下で会うた男以外面識が無いのじゃが他もアレと似たりよったりの考えならば聖堂とは絶対会いたくないのじゃ」
「だろう? そういうこともあってお主だけを呼んだんだよ。ダーシュやお主の男も一緒だとアイツラが気に病みそうだからな」
「確かに、カルンは優しいからのぉ」
ワシ一人でここに呼び出したのは他言無用の約束とこの話をするためだったようだ。
奥さんも何か聖堂にあるのか町長と一緒になって、その後もしばらく愚痴を聞かされるはめになるのだった…。
なんか前にも似た事あったな…。




