20手間
宿で寝ていると、昨日と同じような時間にまたギルドの人が呼びに来た。
ベットから降り手早く身なりを整え、麻のショートパンツに無地のノースリーブニットに着替える。
文明的にここは元の世界の中世レベルに見えるのに、所々現代的なファッションが存在するのは、獣人の中には体格や鱗などの特徴のせいで、袖が無い物などを着てるのを若者がオシャレだ!と真似してそれが広まった結果らしい。そして着替えている間にも…
「インビジブルクロー…いや見える事もあるのじゃからインビジブルは…うぅむ…」
身支度を終えギルドに向かう途中もうんうんと唸り、ふと空を見上げると、月のない星だけの空を白い鳥の様なものが飛んでいた。その鳥はそういう能力を持ってるのか幽鬼の如くゆらゆらと揺らめいて見えた。
「さすがファンタジー、あんな鳥がいるんじゃのぉ…おぉ!そうじゃ幽鬼、これじゃファントムじゃ!ファントムエッジ!んむ、実にくーるでよい名じゃの!」
技(予定)の名前が決まってスッキリとした気分でギルドに向かうと、昨日の探索班と待機班のメンバーに加え、さらに何名かの見たことないハンターの人達がすでに待っていた。
「もしかして遅れたのかの?」
そそくさとアレックスのそばに行き小声で聞くと。
「いや、まだギルド長が来てないし大丈夫だろ?」
まるでそのセリフを待ってましたとばかりに登場したギルド長が今回の調査方法について説明し始める。
「今回見つかった洞窟は全貌が分からないため、洞窟内部でキャンプをしつつ調査を行う。通常であればもっと時間をかけて調査を行いたいのだが、内部で多数のスライムの魔物が見つかっており、洞窟内で魔物の大量発生などの緊急事態が起きている可能性が高いため、長期間の探索は出来るだけ避けたい。そのため昨日ギルド本部に二以上のハンターの応援を要請しておいた。三、四日で来るだろうから、それまで出来る限りの調査を行う」
その後内部でのキャンプ等の予定などを話した後、昨日と同じように西の森へと向かう。
今回はギルド長自ら来ることは無く、支部で後続のハンターの投入指示などをしつつ、本部からの応援の到着を待つ。
調査では、まず最初は3つの班に分かれるらしい。西の森は昨日の内に調査のため立ち入り禁止に指定したが、そのお触れを聞いてない者や迷い込んだ者、そして魔獣、魔物が入り込まないよう入り口でキャンプをする班。
昨日スライムと戦った場所でキャンプをし、洞窟内での安全な休憩地点を確保する班、これには昨日の待機班が当たる。調査班は適時ここに戻りつつ、洞窟の地図の共有と後続の人数などを見てキャンプを前進させるとのこと。
そして我らが探索班、ワシとアレックス、魔法使いのお姉さんことサンドラ、斥候のジョーンズ、そして昨日一切しゃべらなかったし特に何もしなかった最後の一人、実はこの人地図作製が得意だそうで昨日は一本道だったせいでいいところは無かったマッパーのインディ。
探索班は体力や安全地帯の確保等で適宜、洞窟内キャンプ…拠点に報告や休憩に戻る。
そうこうしてる内に洞窟内の広場まで戻ってきたが、そこにはスライムが何匹か居るだけで、昨日のように一面ということはなかった。そこで拠点設営する待機班と別れ、奥へと続くであろう通路に向かう。
「くふふ、楽しみじゃのぉ、何があるのかのぉ、何が来ようとワシのファントムエッジで微塵切りじゃ!」
「あ、セルカちゃん技の名前決めたんだぁ、ギルドで登録はした?」
「いや、技の名前を決めたのはつい先ほどじゃし登録はまだじゃが、せんといかんのか?」
「んー、別に必ずってわけじゃないんだけど、登録すればセルカちゃんが技の創始者として名前が残るのと、登録された技や魔法をギルドから教えてもらう際に払った手数料のうちの幾らかが、創始者に振り込まれるの。あとは創始者の人以外が勝手に技を広められないようになるかな」
ふむ、特許申請と印税の様なものかの…。
「しかし、何故わざわざそんな面倒なことをするのじゃ?」
「技や魔法によっては危険なものもあるし、覚えた人はギルドに登録されるから、危険な技や魔法を犯罪などに使った場合はすぐ犯人が絞れるってわけね。誰がどの技や魔法を覚えてるって判れば戦力の把握にも繋がるしね。あと、創始者が広めた場合は創始者がギルドに技や魔法を習得した人を報告する義務があるわ。あと宝珠を利用して登録するから、覚えた技や魔法はカードにも表示されるのよ」
「ん?ということはワシのファントムエッジは登録しないとまずいかの?」
「そこは大丈夫だと思うわ、魔手っていう恐らくは新たなカテゴリーの武器?の技になるだろうし、今のところ使えるのも教えれるのもセルカちゃんだけだもの。普通は創始者がギルド職員に教えて、その職員が希望者に教えるって事になるんだけど、職員に使える人がいない場合はセルカちゃんが直接教えることになるわ」
「ふむふむ、なるほどのぉ…ありがとう助かったのじゃ!」
どういたしまして、なんて二人で話していると今まで赤茶けた壁だけだった中に苔が生えはじめ、さらには地面が苔莚ているのに気付く。
「ちょっと灯りを消してみてくれない?」
絶景じゃのぉなどと思ってると、サンドラがハッと何かに気付いたようにそう言うので、ジョーンズが灯りを消した。すると真っ暗になると思いきや、苔自体がぼんやりと、歩くのに全く問題ないほどの光量を発していた。
「やっぱりこれ、マナ苔だわ。苔が生え始めたあたりから空気中のマナの量が一気に増え始めたもの。もしかしたら今回の大量発生の原因は、地脈が移動して洞窟内にマナが溢れすぎたからなのかも」
そう話してくれると、歩くのには問題ないとは言え、問題なく周りを見渡せるというほど明るくは無いので再び灯りをつける。苔も踏み荒らされた形跡も無く、しばらくは安全だろうと周りを観察しつつ話しながら進み、
地脈の事を教えてもらった。
曰く地脈というのは穢れを含んだものも含め、マナが世界樹に向かって水脈のように移動する経路の事らしい。偶に移動したり分岐したものが洞窟などに当たると、今回の様に魔獣や魔物が大量発生したり、クリスタルや晶石と呼ばれるマナが自然に結晶化したものが鉱脈となる場合もあるらしい。
大量発生と鉱脈化はどっちの比率が高いにせよセットになってるので、ボーナス決定だなとはジョーンズ談。
晶石鉱脈を見つけたハンターはギルドから特別手当が支給される。これは魔石に比べ晶石のマナの純度が非常に高く、魔貨や高性能な魔具の素材となるため重宝される為とのこと。
そして、苔の中にちらほらと、薄緑に光る水晶のような晶石が混じり始めたころ。
ようやく魔物がウジュルウジュルと姿を見せるのだった。
岩とかは転がってきません…たぶん。
閉所の攻略でマッパーは重要だよね!って事で探索班最後の一人はマッパーにしました。
一面苔の表現に苔筵という言葉があり、愛媛に同名のカフェがあって以前行ったことがあるのですが、実にファンタジーな景色でした。




