2手間
説明回( ˘ω˘)
女神さまが呼んでいる気がする…そんなぼやーっとした気分のまま目をこする。
ふわふわと波間を漂っている様な、上も下も分からない………これはどういうことなんだろう…。
ぼーっとした頭のまま、ふわふわと漂っていると、
《さて、新しい体を創っている間に向こうの常識などについてお教えしましょう》
女神さまの声が聞こえてきて、スッと頭が冴えてくる。
「えっ?さっきは何の説明も無く落とされたんだけど?」
《その事についてですが、先ほどまででしたら召喚先で教えてもらえるはずだったので即送り出しました。けれども、今回は契約による召喚ではなく、私の意志で送り出しますので》
ということは、女神さまが違反に気づかずに向こうに送り出されてしまっていたら…。
常識云々の前に、奴隷よりも酷い制約で縛られ、死ぬまで働かされる羽目になる可能性があったのか…。
ありがとう女神さま! あるのか知らないけど、あったら女神さま教に宗旨替えします! 覚えてたら!
過ぎ去った危機は一先ず置いておいて、女神さまが教えてくれた常識によれば…。
転生先は世界樹が全てを支えている世界で、マナというものが酸素の代わりに存在する。
世界樹を中心として世界は廻っている。地動説ではなく、世界の成り立ち的な意味で。
つまるところ酸素の代わりにマナがあり、地球での木々の活動だったのが世界規模になった様な感じか?
その考えはあながち間違ってないらしく、向こうでは酸素の代わりにマナで呼吸する。
マナがすべての接着剤、例えるなら分子モデルの腕として物質を支えている。
さらに呼吸で吸い込んだマナは、呼気に穢れと人々から呼ばれているものを伴い、人や動物から吐き出される。
草木がそれを吸い、僅かばかりの穢れを取り除いた通常のマナを吐き出しつつ、
取り除ききれなかった穢れを含んだマナは、地面の中に水脈のように存在する地脈と呼ばれるものを通って世界樹に戻る。
戻ってきたマナは世界樹ですべての穢れが取り除かれ、そしてまた世界に還る。そうやって世界を巡っているそうだ。
そしてこれが肉体を作り変えた最大の理由でもある。
酸素の代わりにマナがある…つまり酸素がない。地球の人間がその肉体のままアチラに行ってしまうと、空気はあるのに窒息死、なんて事になってしまう。
そこでふと疑問に思った。何故召喚された人間はマナで呼吸が出来るのか? と、これもすぐ女神さまは教えてくれた。
詳しい理論はさっぱりだったが、簡単に言うとマナを酸素として利用出来る、フィルターの様なものが召喚時に付与されるとの事だ。
そしてこのフィルター、実に恐ろしいことに…召喚した人が任意にオンとオフを切り替えられるという。
奴隷よりも酷い制約とは正にこれのこと…聞いたときは思わずゾゾゾと背筋が寒くなったものだ。
話はそれたが、マナ…その動きはまさに酸素と二酸化炭素、さらにそれに雨、というか水の循環を合わせたような感じだ。
こうやって世界を巡っていくマナだが、穢れたマナが溜まり淀み易い場所が多々ある。
そこの生き物は穢れを呼気で吐き出せないほど体内に溜めこんでしまう。そして、その生き物が死ぬと魔獣となる。
魔獣となってしまうと、正常なマナをその身に宿すほかの生き物や、多くのマナをため込める人を襲う様になる。
そんな魔獣を狩るためにハンターギルドという組織が存在する。
向こうの魔獣に脅かされる人には悪いけども、ギルドという単語は楽しみでワクワクする。
この魔獣が襲うのは、正常なマナを持つものだけに留まらず、
自らの仲間と認識しているもの、それ以外の魔獣にすらも襲いかかり、さらに穢れやマナをため込み続ける。
どんどんと穢れたマナを取り込み、最終的には体内で魔石というものが生成されるほどになる。
こうなると魔物と呼ばれるようになる。中には知恵などを付けるものもおり、脅威度が跳ね上がる。
魔物と魔獣を区別するのは簡単で、魔物は基本的には額あたりに宝珠と呼ばれるものが浮き上がる。
基本的にと言うのは、肉体を保てず不定形の存在になったりするものも居たりするからだそうだ。
この宝珠と呼ばれるものは、マナを集め吸収する機能とマナへ働きかけるアンテナような機能がある。
それはマナへ力の方向性を与える。方向性というのは炎にしたり雷を発生させたりと、つまりは魔法を発動させることが出来る。
これが魔物が脅威である事の理由の一つ。さらに、呼吸+宝珠でのマナの吸収によって、体内に取り込むマナの量が跳ね上がる。
身体能力が文字通りケタ違いに上がる事が脅威であるもう一つの理由。そして吸収量が増えるということは穢れもさらに吸収し強くなる。
またこの宝珠は人にも発現する。人は魔獣と違い、マナをいくら過剰に吸収しても魔獣化はしないが、それと同時に宝珠も発現しない。
宝珠が浮き出るか否かは、全て本人の資質に依る。そのため、生まれた時から持ってる人もいれば、後天的に発現している人もいる。
また人の場合は宝珠の効果も千差万別で、発現する場所も魔物と違い額に限られず、胸や手など様々な場所に発現する。
効果自体も身体能力の向上だけでなく、魔法が上手く使えたり、魔法が使えない代わりに身体能力が異常に上昇したりする。
他にはケガが治りやすくなったり、畑仕事が上手くなったりと本当に色々ある。
火を灯したりなんてファンタジックな魔法は実のところ宝珠を介さなくても誰でも使えたりする。
焚火の火種としたり、水を出したり、湯を沸かしたり等のちょっと便利程度のものなのだが…。
こちらは宝珠を介した高性能な魔法と区別して法術と呼ばれる。
先ほど話に出たハンターギルドに登録するにはこの宝珠を発現させている事が絶対条件。
それは、宝珠の能力の内容はともかく、確実にある程度の身体能力が向上するため。
宝珠による身体能力のブーストが無い人間にとっては、魔獣は死でしかないのだ。
次に教えてくれたのが、向こうの世界に暮らしている人々の事。
これは所謂動物や魔獣、魔物以外の知恵を持って生活してる者たちを指す。
ぶっちゃけて言えば人間型の生物。ゴブリンやオークは居ない。くっ殺なんてないのだ。
人間型の生物を総合して人間と呼ぶのだが、その中でも最も数が多いのがヒューマン。
地球の人間とほぼ同じ容姿を持っている。
向こうの世界は国と呼ばれるものは無く、何人かの領主と呼ばれる貴族の元に街を構えて暮らしている。
そんな領主が住んでいる街を中心に、多数の町や村などを内包した領土で生活している人たち。
寿命は平均で五十年ほどだが、宝珠が発現してる人の中には、百年や二百年生きる人もいる。
宝珠を持っている人で寿命が延びるのはヒューマンだけでなく、人間はすべて延びる。
元来短命な種族ほど、元々の寿命に対する延び率がいいらしい。
まぁ、同じ百年でも五十年しか生きられない者と、千年生きる者とじゃ重さが違うしね。
次にファンタジーの定番、エルフとハイエルフ。
世界樹と共にあり万年を生き、世界樹の民を自負するハイエルフ。
ハイエルフには額に必ず生まれながらに宝珠が存在する。
穢れの少ない森の中で千年を生き、狩りを中心に生きる森の民であるエルフ。
尚、エルフに宝珠が発現してもハイエルフとは呼ばれず、区別されている。
この二つの種族は、宝珠以外には違いは無い。
にも関わらず寿命が違うのは、ハイエルフは世界樹のマナを近くで代々浴びてるために長寿になるらしい。
さらにこちらは若干渋めのファンタジーの定番、ドワーフ。
こちらはマナが豊富にしみ込んでいる、地脈に近い鉱山に住んでいる。
酒を好み、驚くことに石を食べ生活してるとのこと。寿命はエルフと同じ千年ほど。
二種のエルフとドワーフの見た目は大体誰もが想像するような、ファンタジーの定番の見た目。
最後に萌えの定番、獣人。
様々な動物の特徴を持っていて、同じ種族同士で里を形成して暮らしている。
同じ種族内の者でも、より動物に近い見た目の者、耳やしっぽだけ動物、などと容姿もさまざま。
寿命も種族によって大きく違い、さらに動物に近い容姿の者ほど寿命が短くなる。
二十年ぐらいの者から千年を越える者までかなり幅が広い。ちなみに自分が転生する先の種族は獣人。
《その説明は体がきっちりと創られてから改めてお教えしますね。あらんかぎりの希望を詰めておきましたので、楽しみにしておいてください》
なんて女神さまの声が聞こえた気がしたけれど、それを考える前にまた睡魔が襲ってきた。
まだ説明回続きます