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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
女神の願いを邪魔する奴ら
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187手間

 宿の窓から飛び出して、坂道を転けて転がっているではと思うほどの前傾姿勢で駆ける駆ける。

 彼我の距離はもう一足、右手一本で持つ剣はシャムシールやシミター等と呼ばれる片刃の曲刀。


 それを右肩に担ぎ、左手は獲物を狙う照星が如く前に突き出す担肩刀勢などと言う構え。

 別に習ったわけでも修めた訳でもなく、ただ単に一番威力が出そうだったから。


 ワシと魔物ほぼ同時にカルンの下へとたどり着き、魔物は足を止めカルンへと向かい腕を振り上げる、その手には鋭い爪が生え揃い当たればただでは済まないだろう。


「でぇええええええい!!」


 しかし、足を止めたのならばこれ幸いと、最後の一足に力を込め左手を引き戻す勢いも合わせ、蹴り出すと共に裂帛の気合を込めて刃を振り下ろす。

 素人剣術と言えども宝珠持ち獣人の膂力と、姿が変わらぬ程度に引き釣りだした魔手の力を合わせれば、その威力は如何程のものか。

 更に相手が避ける気のない棒立ちとなれば、それは致命的なものとなる。


 魔物の右肩から左の脇腹までを袈裟懸けに切り裂けば、振り下ろした勢い其のままに魔物の上半身がドス黒い血とも粘液とも取れぬ液体を撒き散らしながら地面を転がる。

 ワシも採掘中にでた石でも使ったか、不揃いな石をやる気なく敷き詰めた道を削りながら勢いを殺し止まると、しばらく転がっていた上半身は黒い塵となり消え去った。


「カルンや!魔石はそっちじゃ!」


「はい!『ファイヤピラー』!!」


 上半身ほどでは無かったものの少し飛ばされ、倒れ伏した下半身を地面から吹き上がる炎が包む。

 炎の柱の中でしばらく藻掻くかのように影が蠢いていたが、それもすぐに見えなくなった。

 送り火のようにしばらく燃え続けた炎が、蒼い空に火の粉だけを残し虚空へと消えると、今まで下半身があった所には小指の爪程度しかない魔石だけが残されていた。


「強さの割には魔石が小さすぎるのぉ…」


「えぇ、僕の魔法を耐えれる魔物なら最低でも握り拳位はありそうなのに」


「あ…あんた達やったのか?」


「あぁ、そうだ魔物は今の一匹だけか?」


 魔物に弾き飛ばされた一人なのか、腹を抑えつつやってきた衛兵にご主人様の演技をしたカルンが対応する。


「恐らくは…あいつらの宿舎から出てきたやつはそれ一匹だけだ」


「そうか…犯罪奴隷の方も手伝うか?」


「いや、大丈夫だ。出てきたやつはみんなあの魔物にやられたし、残ってた奴らもびびって外には出てきてないからな」


「わかった」


 状況を言い終えた衛兵はワシをじっと見つめて、しばらくしてから溜めていた息を吐き出すと頭をガシガシと掻いて頭を振った。


「新しく王?とかになった奴から、戦闘能力の高い獣人は狩れと言われているのだが…」


 衛兵のその言葉に剣を握り直す。


「止めてくれ、俺どころかこの町の衛兵束で掛かっても勝てそうにない、それに町を救ってくれた人にそんな恩知らずな事をするほど落ちぶれちゃいない」


 慌てて首と両手を振って違う違うと言う衛兵の言葉に嘘はなさそうだった。


「とりあえず、魔物を倒したのはそっちの兄ちゃんって事にしておくよ」


「助かるのじゃ」


「なに…助かったのはこっちだよ。この時期狩人(ハンター)なんて他の町から細工やら何やらを買い付けに来た商人の護衛くらいしか来ないし、それが済んだらさっさと商人達と一緒に帰っちまう。この辺りは魔物なんて殆ど出ないし、俺はあるが町に居る奴らは殆ど宝珠が無いしな」


「隊長、門を封鎖し一応逃げ出した奴が居ないか捜索班を出しました」


「わかった、引き続き宿舎の封鎖を頼む」


「はい!」


 下から駆けてきた少年と言えそうな衛兵が報告だけしてまた下へと駆け戻っていった。


「俺もあまり草木を愛でる訳にもいかないのでこれで失礼するが、後でこの町の長から感謝があると思う」


「いやいい、俺達はハンターとして当然の事をしたまでだ」


「ははっ何だそれかっこいいな、俺も一度は言ってみたいものだ。それじゃあな」


 隊長と呼ばれた男はイチチチなんて戯けた声を出しながら。宿舎や門の周辺で作業している衛兵たちの下へ帰っていった。


「カ…ご主人様や、ワシらも宿に戻ろう?」


「あぁ、そうだな」


 恐らくあの調子では二、三日門が開くことは無いだろう、思わぬ足止めではあるがそこまで急ぐ旅でもないので、今度こそのんびりしようと彼らに背を向けてワシらも歩き出すのだった。

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