184手間
お昼にと寄った食堂は案の定と言うか何というか、ドワーフ達の宴会場と化していた。
鉱石を美味しそうにボリボリと食べて飲んで、普通に食事を食べて飲んで騒いで…。
祝いの席かと思うほどの騒ぎっぷりだ。それに流石に鍛冶と細工の町と言うべきか、見事な細工の入った金属製のジョッキをハデにぶつけ合っているものだから、中のお酒が周りに飛び散り酒に弱い人ならそれだけで酔っ払うのではないかと思えるほどの強い酒精の香りが辺りに漂っている。
「なんぞ良いことでもあったのかの?」
「ガハハハ、いやぁちょいと四日ほど採掘に夢中になっちまってよ!お陰で良いもん掘れたからな次の採掘に向けての景気づけってわけよ!」
「四日もかえ…まさか飲まず食わずなのかえ」
「ナハハ、流石にそれは無理だ!つっても水は坑道掘ってたらそこらから滲み出してくるし、屑石を食ってりゃ腹も減らない!ま!外で飲む酒には敵わねぇがよ!!」
「それは…すさまじいのぉ…」
よくこんなので長生きできるものだと…むしろ長生きするからこそこんな…なのか?
「おぉ、そうだこいつ食わねぇか?」
「これは?」
「うめぇからまぁ食ってみろって」
差し出されたお皿に乗っていたのは、一口大の大きさの香ばしくきつね色に炒められたお肉。
「おぉ…これは何とも美味いのぉ」
「そうだろう、そうだろう」
「こっちも食ってみろよ美味いぞ!」
酒の肴なのだろう濃い目の味付けがされた、鶏よりもさっぱりとした口当たりのお肉に感動していると、こっちもこっちもとドワーフ達が集まって皿を差し出してくる。
何がそんなに気に入ったのだろうかチヤホヤしてくるドワーフ達に、なんだかエサをもらう動物園のキツネの様な気分になってくる。
「これは俺のだ…あまり困らせてやるな」
「助かったのじゃ…ご主人様」
「おぉ…すまねぇすまねぇ…くっそー人妻かよぉー」
「ガハハ、こんな子に相手がいないほうが可笑しいだろ!」
「ワ…ワシはご主人様の…」
「あぁ、きにすんなー」
ご主人様の奴隷と言おうとして手で制される、特に何も言ってないのにいったい何故バレたのか…。
奴隷と夫婦になってはいけないなんて事は一応聞いたことが無いが万が一これが漏れたらどうなるか。
「だから気にすんなって」
「むぐぐ、そんなにワシは顔に出ておるかの」
「あぁ、ばっちり…と言ってもドワーフの俺たちからすればだがな」
「そうそう、何千何万と顔のねぇ石ころと向き合ってきたんだ、それに比べりゃ人間の顔色なんてダダ漏れも同然よ!」
「そんなもんじゃろうか…」
「それにここぁ俺達くらいしか来ねぇしな、気にするこっちゃねーよ」
「んだんだ、奴隷なんざ下の奴らで十分よ」
「ん?下の奴らとはなんじゃ?」
獣人の奴隷の事は勿論知っているのだろうが、そんな事はどうでも言いとばかりに話してくれる中に気になる言葉があった。
「ん?あぁ、門がある所によ、でっかい建物あったろ?衛兵が沢山いる」
「んむ、衛兵の宿舎か何かと思っておったんじゃが、違うのかえ?」
「あぁ、犯罪奴隷どもがあそこで採掘やら製鉄やらやってんだよ」
「けどま、所詮は嫌々やってる連中よ」
「採掘の量も質も」
「溶かした石の純度も小童に劣る奴らよ!」
そうだそうだの大合唱、そしてそれを肴にさらに酒を飲む。
凄まじいまでの豪放磊落さ、そんな彼らの姿は物語に読んだドワーフそのままのような気がして思わず頬が緩む。
しかし、そんなワシの態度が気に入らない人が一人、ワシの肩をガシっと掴んできた。
「俺達はこれで失礼する」
「おう!また食いに来いよ!」
「う…うむ、機会があればの」
逃さないとばかりに肩をぎゅっと抱かれる。それ自体は嬉しいし胸も高鳴るがのだが…。
ちらっと仰ぎ見たご主人様の横顔は、何かを押さえ込んでいる様な気がして、暑いわけでもないのにつつっと背中に汗が流れる気がするのだった…。




