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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
女神の願いを邪魔する奴ら
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183手間

 ご主人様と二人で食堂に行くとまだまだ朝早いにも関わらず、大勢のドワーフ達で賑わっていた。

 どいつもこいつも見事な髭面で、四角く切り揃えた者、仙人のように足元近くまで伸ばしている者。

 そんな奴らが朝っぱらから酒をかっくらって騒いでいる。


 これでは落ち着いて朝食も食べれないと、早めに食べ終えて早々食堂を後にする。

 豪快に騒いでたお陰で居るだけで色々聞こえてきたのはありがたかったが…。


 と言っても酒の席での話し故、そこまで有用な情報ではないが。

 一つあげるならワシが夜勤だと思ってた連中は、ただ単に採掘に夢中になって徹夜しちゃった奴らだという事だったり。


「聞きしに勝る連中じゃの…」


「やんのかごるぁああぁん!!」


「山に住み、魔貨などの細工をしてる種族くらいしか…」


「やってやろうじゃねぇかあああぁん!!」


 お前らどこのヤンキーだ…。

 扉を閉めた背後の石造りの建物からでも聞こえる怒号。

 採掘のやり方の違いで口論を始め遂には殴り合いの喧嘩に…。

 しかも日常茶飯事なのか、誰も止めようとせずそれどころか煽る始末。


 何とか喧嘩が始まる前に宿の主人から聞き出せた、細工物を見るなら一つ下の工房を巡ると良いという言葉。

 それに従い一つ下の棚へと向かう、この宿のある二つ目の棚は商店区画のようで。

 宿を始め様々な物を取り扱うお店が並び、細工物も此処にあるのではないかと思うのだが。

 細工と鍛冶は各工房で直接販売しているそうだ。同じ町で大した距離でも無いのに、態々店舗を構えと言うのは確かに無駄か…。


 ガンガンガンと豪快な音を響かせている一角を除けば、通りに向かって開放された工房で、ちょうど何人かのヒューマンが剣を鍛えてる所だった。

 スレッジハンマーの様な巨大な槌を構えた二人が、これまた巨大なペンチの様なものでもう一人が固定している赤熱した金属へと豪快に振り下ろしている。


 また別の人は時折火の粉が上がる巨大な井戸の前で仕切りに片足を上下させ、それに合わせて火の粉が勢い良く舞い上がり時折炎まで立ち昇る。

 恐らくあの足元にふいごがあり、ちょうど金属を熱しているところなのだろう。


 一通り彼らが何をしているか見終わると細工物の店を探して移動する。

 ご主人様も魔法使いだから、特にそこまで興味がある様でも無かった。


 剣を貰って嬉しそうにしていたカイルならば、いつまでも眺めていたかもしれないが…。

 カイルに土産として剣をと思ったが、ハンターになる際にあげた剣は街の鍛冶屋に鍛えさせたそれなりの業物。

 すぐ手に入るような数打ちでは意味が無いかと頭を振る。


 幾つか並んでいた鍛冶屋を抜け、遂に目当ての細工物の工房へとたどり着く。

 鍛冶屋と違い通路に向かって開いては居ないが、時折キンキンと何かを打ち付ける音が聞こえ。

 ここは確かに何かを作っている場所だと知らせている、何より看板が指輪と杖を交差させた意趣だ間違えようがない。


「ご主人様ここが細工の工房の様ですじゃ」


「あぁ」


 いつも通りギィっと木が軋む音と共に扉を開けてご主人様を中へと促すと、それに続いてお店の中へとワシも入る。


「おーう、らっしゃい…」


 カウンターで立派な顎髭に頬杖を付き、どう聞いても嫌々とした雰囲気が伝わってくる姿と声で迎え入れられる。

 店番なのだろうが、そのドワーフの顔は無気力その物で、むしろ何が彼をそこまで無気力にさせているのだろうと興味が湧くほどだ。


「物を見せてほしいのだが?」


「盗らなきゃ勝手に見ていっていいぞ」


 こちらを一瞥だにもせず、何を見てるのか見てないのか、ご主人様の問いに視線を中空に彷徨わせたままそんな答えが口から返ってきた。

 ならば勝手に見させてもらおうと、こちらも見れればいいだろと語ってきそうなほど適当に置かれた細工を物色していく。


 ご主人様は一直線にまるで雨の日の傘立てのように入れられた杖の籠が幾つか並んでいる辺りへ。

 奴隷としてはその後ろに続くのが良いのだろうが、店番も寝たのではないかと言うほど無気力で他に客も居ないことを良いことにアクセサリーなど置いている辺りへ向かう。


 置いてあるものはみな色とりどりの宝石が散りばめられ、金銀財宝という言葉が似合うような物…では無く。

 細かい装飾が施されているものの、落ち着いたデザインでどれもこれも品のいいものばかりだ。


 アクセサリーなど結婚式で着飾って以来だ、ハンターやってる間は危なくて着けていられないし、子育てしてる間も何だかんだで着けていない。

 やはりと言うか草木をモチーフにしたものが多く、花弁や実を宝石で飾ったそれらに目を奪われる。


「それが欲しいの?」


「ひゅえっ!みみみ見てただけじゃ、奴隷のワシには過ぎたものじゃ!」


 幾つかのアクセサリーの中の一つを取り上げて眺めていると、いつの間にか後ろにいたご主人様が耳元で囁いてきた。

 驚いて勢い良くアクセサリーを元の棚に戻すと、色んな意味で早鐘を打つ胸を抑えて先に外で待ってると店を後にする。


 正直に言えば欲しくない訳がない。欲を言えば贈られたい。

 あまりそういう慣習が無いのか、それとも男なんでどこでもそんなものなのか物を贈られた憶えがない。

 特に特に左手なんかが寂しいなぁと時々漏らしはしたものの、イマイチピンと来ないのだろう何度も流された。


 何故色んな所に日本人の居た名残は残っているのに、この辺りは残ってないのか!

 しばらくそんな詮無いことで頭を抱えていると、お店からご主人様が出てきた。


「何も買わなかったのかの?」


「あぁ、杖頭なんかは買ったけど杖のサイズに合わせるために明日までかかるんだってさ」


「なるほどのぉ」


「それじゃ食堂に行こうか、美味しいお店を教えてもらったからさ」


「ドワーフのオススメのぉ…石が出てくるんじゃなかろうの」


 先程までの悩みを捨て去り、あの無気力店番のオススメかぁ…となんだかそれは心配だと失礼なことを考えつつ、先に行くご主人様の後を追うのだった。

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