19手間
スライムを一掃した広場…だいたい体育館くらいのかなりの広さがあり、その中で腰かけるのに丁度いい具合の石が転がってる一角で、魔術で火を起こしそれを囲んで今後のことを話し合う。
「俺は引き返すことを勧める、この先に何がいるかわからないし、ここに来るまでだけでも結構掛かってる。
それに、先に行くにしても準備をしておかないとな。今回は急だったから、短期用の物資しか持ってきていない」
そう斥候役を務めてた男が言うと、ワシ以外の全員が同じ考えだったのか同意を示す。
「ワシとしては戦い足りんが…」
「そこまで戦闘狂とは思わなかったぜ…まぁ、安心しろ。どうせ後日の再探索のメンバーに選ばれるだろうよ。
マナ的にも地形的にも下手に魔法は連発できないスライムが多くいる洞窟、そんな状況でスライムの天敵のような力があるんだ、嫌でも参加させられるさ」
「うぅむ、そういうわけではないんじゃが…」
今回の戦いだけでも、魔物に特効があるのは爪部分での攻撃だけ、敵を倒せば倒す程強化される、見えない斬撃、そしてそれが強化された黒い斬撃。例えばこれは単一の敵を殴り続けても発動するのかどうかなど、自分の力を見極めるためにもっと戦っておきたかった、そう考えての発言だったが、よく考えずとも戦闘狂扱い自体は大して間違ってないな…などと一人唸っていると。
「そういえば、セルカちゃんが使ってたあの黒いのが飛んでたのは、なんて技なの?」
そう魔法使いのお姉さんが聞いてくるが、特に意識して使ってたわけではないし、技という程のものでもない。
「技?特に意識して使ってるわけでもないしのぉ…」
「あ、そうか。セルカちゃんはハンターになったばっかりだし、技の事知らないか。アレックスさんは教えてない?」
そうだ、とアレックスが同意すればお姉さんは喜々として喋りだした。
「私の使ってる魔法もそうなんだけどね、ハンターギルドで習得難易度とか希少性に応じた金額を払う必要があるけど、技や魔法を教えてもらうことができるの。アレックスさん達が使ってる『ブレイズエッジ』も技の一つね。魔法を上手く使える人は技が使えず、逆に技を上手く使える人は魔法が使えない、そういう法則があるから両方ってのはお金の無駄だから気を付けてね」
そこまで話したところで、アレックスが帰りも時間が十分あるから道中話せばいいだろうと言いつつ、立ち上がるのを合図に火を消し帰路に就くことにした。
入り口までの道中は行きと同じく、コウモリ以外は魔獣などにも出会わなかったので続きを話してもらい、それによると。
技というのは端的に言えばRPGなどのスキルや特技なんて呼ばれる様な攻撃の総称で、宝珠に蓄えたマナを消費して使うもの。逆に、魔法は自然に存在するマナを利用したものとなる。
宝珠のマナを使うのが上手いか、自然に存在するマナを使うのがうまいか、その技能は二者択一で技を極めれば魔法が、魔法を極めれば技が使えなくなる…というわけではないが、弱くなるのだそう。
どうやらワシが魔法が使えなかったのは、そういう制限があったわけでなく、単に教えてもらってなかったからという単純な理由だったようだ。
とは言え魔手の「マナを喰い破壊する」という特性上、絶対的に魔法とは相性は悪そうなので、今後も教わることも無いだろう。
そもそも獣人は総じて魔法を不得手とする種族のようで、逆に技が不得手なのはエルフ、ハイエルフだそう。
また、魔術の中には体調を多少良くしたり、免疫機能を向上させるものもあるが、ファンタジーの定番である
ケガを治すような回復魔法は無く、そしてポーションなどの回復アイテムも無いと、実にこの世界はシビアなようだ…。
その辺りまで教えてもらったところで、この話をするキッカケとなった、ワシの見えない斬撃の話に戻った。
正直まだまだこの見えない斬撃の特性がよくわかっておらず、爪にマナを込めたら発動するという事と、倒せば倒すほど見えない斬撃が実体を持ち強化されるという事だけがわかっている。恐らく倒したり削り取って喰ったマナに応じて強化されるのだろうが、もっと試さないと確証は得られない。
とは言えそんな技、聞いたことも無いし見たこともない完全オリジナルだろうし、そもそも魔手を使わないとできないだろうから、オリジナルの技として自分で名付けていいという実に心躍る提案をしてくれた。入口に戻り待機班と一緒にギルド長の元に戻り、そこで顛末を報告し街へ帰還したのち、明日までに対応を検討し明日の朝また呼ぶという事を宿で夕食をとりつつアレックスに聞くまで、うんうんと技の名前を悩んだが、結局寝るまで技の名前は決まらないのであった。
結局最後の一人は役割どころか一言も喋らず洞窟探索は終わってしまった…。
回復役は潰れたのであとはタンクと思ったけど、重装備はこの世界では主流ではないという説明わすれてた!と言うことで今後本編では語られないと思うので、ここでその理由を。
ただの獣や魔獣なら兎も角、魔物ほどになると単純な膂力も高く、おまけに魔法も使えるモノもいるから、重装備では回避できないし耐えれないので、当たらなければどうということはないという考えが主流になっているという設定。




