178手間
宿で教えてもらった獣人用の服を取り扱ってる店に向かって、ご主人様の斜め後ろを静々と着いて行く。
朝食を宿の食堂でとったのだが特に悶着も無く食べ終えれた。奴隷可の宿にある食堂だから当然といえば当然なのだが…。
もっとこう奴隷は床で食べてな!げへへへ、みたいなことでもあるかと思っていたのでちょっと拍子抜けだった。
食べつつ周りをちらちら眺めてみたが、ワシ以外にも憚れること無く主人と同席し食事をとっている奴隷もちらほら見られた。
けれどもよくよく見れば同席出来ているのは着飾った愛玩奴隷のみで、汎用奴隷と思われる下男風の粗末な格好をした奴隷たちは主人であろう人達の背後に立ち、美味しそうにそれを眺めているだけだった。
それよりも気になったのが、宿と町中にいる奴隷の数だ…。
「おい、そこの衛兵よ」
「ん?なんだ?」
「なに、いやに奴隷の数が多いようでな、何かあったのか?」
「あぁ…先日獣の里が見つかったそうでな、そこを一網打尽にしたらしいんだよ…お陰でそれに参加した狩人どもは一攫千金羨ましい限りだよ」
「なるほど…そうだったか、ありがとう」
「いえ!こちらも旦那のお役に立てたのなら幸いです」
話をしてくれた衛兵にご主人様が銀貨を握らせると衛兵はいい笑顔で敬礼して去っていった。
だが去り際に「あんなエロい奴隷が居るのにまだ欲しいのかねぇ…」なんて言葉を呟いたのをワシの耳は聞き逃さなかった。
「カ…ご主人様や、早う服屋に行きましょうぞ」
「そうだね…あ、そうだな」
今のワシは布一枚を腰紐一本で止めてる様な貫頭衣、正直言って外を出歩くような格好ではない。
幸いと言って良いものか、ワシは奴隷故それを咎められる事はないが…男どもの視線が痛い。
「ここだな」
ご主人様が足を止め見上げた先には糸巻きと針が描かれた看板、店構えはこの看板が無ければ普通の家と見分けがつかないそんなありふれたもの。
見上げているその間にワシはささっと動いてお店の扉を開ける、カルンはそんな事しなくても良いのにと言う顔をしてるがワシは奴隷、ご主人様にごほーしするのは当然なのだ。
「いらっしゃい…あぁ、その子に服だね?」
「そうだ…何がいい?」
「ご主人様におまかせするのじゃ」
先に店に入ったご主人様に続いて入ると中に居たのは恰幅のいいおばちゃんが一人。
ご主人様に続いて入ってきたワシの格好を見て一目で何の用かわかったのだろう、続いてご主人様が肯定とワシに何が良いか聞いてくるが、即座にご主人様の選んだ服が良いと返す。
「遠慮するな、好きなのを選ぶと良い」
「ぐぬぬ」
「ははっ、何か希望があれば私が見立ててあげるよ」
だがカルンにはそんな気持ちは理解されなかったようで、カルンの中のご主人様イメージなのか鷹揚に両手を広げ頷いている。
「はぁ…そうじゃのぉ………では、仕事着としても使えてご主人様を悩殺できる様なせくしーなものをお願いするのじゃ」
「いいのかい…?」
「うむ」
「よし、それじゃあちょっと付いてきな」
流石に二度三度とご主人様の言葉を否定するのは怪しいだろうと、服を選んであげると言ってくれたおばちゃんの下に行き、カルンに聞こえない程度の小声で要望を伝える。
おばちゃんはちょっと考え込み該当する服があったのか、付いてこいというと店の奥にさっさと歩いていってしまったので、慌ててその後を追いかける。
店の奥には山積みとまでは行かないが棚に置かれた沢山の生地や型紙、縫っている途中なのだろうか机の上に置かれた仮止めされた服などが雑然と置かれていた。
「さてと…ご要望のものだとこんなところかね、獣人の子は尻尾があるから本来のワンピースだと無理だけどこれなら着れるだろう?」
差し出された服は濃紺の膝上丈のワンピースを腰辺りで切り分けたものにフリル付きのエプロンが付属したようなもの。
例えるならと言うよりもそのまんまサブカルチャーのメイド服、所謂フレンチメイドと言われるやつだ。
仕事着と言う要望を反映してか飾りは最小限で、スカートの裾とエプロンの前掛け部分にフリルが多少あしらってる程度の大人しめのデザインだ。
「これに丈の長い靴下とガーターベルトを合わせれば要望どうりさね」
「これにする!これにするのじゃ!」
「あいよ、それじゃここで着てくかい?その服じゃ流石に町中は嫌だろう?」
「うむ…そうじゃな…」
おばちゃんの手により手早く下着やガーターベルトも含め着替えさせられ、そこではたと気付く。
「靴がないのじゃ…」
「あぁ、あの奴隷商め靴くらい用意してやりゃいいのに…ほら靴はサービスだよ」
「おぉ、ありがとうなのじゃ!」
どこから持ってきたのか差し出されたローファーの様な靴を履くと、部屋に置かれていた少しくすんでいる姿見で全身を確認する。
「うんうん、かわいいじゃないか。そうそう、わかってるとは思うけど丈が短いから屈むと見えるから気をつけるんだよ」
「うむ」
店内へと戻ったワシを見たカルンはご主人様モードの厳つい顔をしていたが、ワシを見た一瞬デレっとしたのを見逃さない。
ちょうど同じ服が何着か置いてあったのでそれも購入し店を出た後は、足として馬車や移動中の食料を買い込みその日のお出かけは終了となった。
宿に戻った後はまだ日が高いというのに部屋へと篭り、宿の設備をフル活用されこの服を買ったのをちょっと後悔したのだった…。
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