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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
女神の願いを邪魔する奴ら
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177手間

 スッっと重い天幕が払いのけられたかのように目が覚める。

 この部屋には窓が無いので正確なところは良くわからないが、体感的には恐らく朝だろう。

 寝台から抜け出すと用意されていた桶に水を溜め、一緒に置いてあったタオルを使い汗やらでべとべとの体を拭いて綺麗にする。


 全身を拭き終えると、寝台の隅でぐしゃぐしゃになっていた貫頭衣を桶に残った水で洗い法術で乾燥させ、さっさとそれを着込む。

 さて後は尻尾の手入れといったところでハタと左腕に腕輪がない事を思い出し、ずかずかと寝台へと向かう。


「カル…ご主人様ーご主人様ー朝じゃよー、起きるのじゃー」


「うぅん…おはようございます」


「ワシの腕輪を返してほしいのじゃ」


「あぁ、そう言えば預かったままでしたね」


 ご主人様が寝ぼけ眼のままで脱ぎ散らかした服を漁っている。

 ジョーンズに捕まる前に向かった先で取られてはいけないと、収納の腕輪を渡して服もボロに変えていた。

 はたから見たら唯一の持ち物であったボロの服も奴隷商のところで取り上げられ、今着ている貫頭衣を渡されたのだ。


「はい、これ」


「ん」


「え…っと…?」


「んー!」


 差し出された腕輪を受け取らずに左手を突き出しているがその意図に気付いてくれない。


「ワシはか、ご主人様に着けて欲しいのじゃ!」


「あぁ…ふふ、ただ着けるだけでいいんです?」


「ん?」


 ご主人様が悪戯っぽく笑ったかと思うと突き出していた左手をぐいっと引っ張り、晒された裸の胸に収められる。


「ご主人様におねだりなんて悪い子狐ちゃんだ」


「おほぉおぉおお」


 ワシの額にご主人様の頬が当たりそうなほど近くで、いつもより低く威厳のある甘い声で囁かれ、ゾクゾクと震える背中に合わせて口から喘ぎにも為らぬ声がもれる。

 悶ている間に着けられたのだろう、腕輪の感触と共に掴まれていた手を開放されると、くたりとそのまま胸の中にしなだれる。


「セ、セルカさん?」


 本人はちょっとした悪戯のつもりだったのだろうが、あまりのワシの反応に慌てたような声と胸から伝わる感覚で、おろおろとしているのが分かる。


「カルンや…今のは…破壊力がありすぎるのじゃ…子を孕むかと思うたわ…」


「えぇぇ…」


 前世で一部の界隈で声だけでどうのこうの言っていたのを聞いて、それを何を馬鹿なことをと内心思っていたのだが。

 いざ自分が当事者になるとなるほどこれはそう思うのも仕方ないと、身を持って知るのだった。


「ふぅ…朝から幸せすぎて倒れるかと思うたわ」


「セルカさんが幸せそうでなによりです…。ところで今日はどうします?特に予定も決めてませんが」


 身悶えるワシを尻目に着替え終えたカルンが、先程までの痴態が無かったかのように話しかけてきた。


「ふむ、そうじゃのぉ…。とりあえずワシの服を見に行かんとの、これだけではちと色々とのぉ…」


 今着ているのは一枚布のぼろっちい貫頭衣だけだ。


「腕輪に色々服は入ってるんじゃ?」


「ご主人様が服を用意したと思われるじゃろうが…流石に昨日買ったばかりの奴隷にぴったりの服を用意しておるのは可怪しいしの。それに今のワシは奴隷じゃからの。収納の腕輪を持っているのは怪しすぎるのじゃ」


「大丈夫だと思いますけどね」


「万が一という事もあるのじゃ…これも布か何かで隠さんとのぉ…」


「あぁ、それなら…」


 そう言ってカルンが取り出したのは首輪と同じ革帯に鎖を付ける為の金具が取り付けられたもの…それが二つ。


「手枷用にと奴隷商に貰ったものですがこれがちょうど良いんじゃないですかね」


「あぁ…それでこの部屋には天井から鎖が垂れておったりしたのじゃな…」


 ここは奴隷も連れ込み可能な高級宿…つまりそういう目的の為のものだったのだろう…。

 カルンやジョーンズによれば、いま西にある店は大きく二つ奴隷連れ込み可のお店と不可のお店に分かれている。


 奴隷連れ込み可のお店はどれもこれも高級な所ばかりらしい。もちろん高級なところでも不可な場所もあるが。

 逆に安い…悪く言えば貧乏御用達のところはすべて奴隷連れ込み不可だ。


 と言うのも汎用にしろ愛玩にしろ人間一人を買うのだから奴隷というのはかなり高価なものになる。

 だから僻みの対象となり反撃できない奴隷は質の悪い人間の良いカモになってしまうからそういうことになっているらしい。


 幸いと言って良いのか、この奴隷制度が制定されてからそこまで時間が経っていないので、大抵のヒューマンは獣人に対しそこまで悪感情を持っていない。

 せいぜい獣呼ばわりする程度、汚物の様に見下したり悪し様に罵ったりという事は今のところ無い、むしろ女性に至ってはワシの事を憐憫の目で見ている程だ。

 しばらく前までは隣人として暮らしていたのだからある意味当然と言えば当然だろうが、それもこの制度が長く続けばどうなるかわからない。


 何でこんなことになっているのか…そして何をしようとしているのか…正直カカルニアに対して何かしてこなければ何しようと構わない。

 ワシは聖人君子でも大統領でもない、奴隷解放なんて事は考えてないしやるのなら当事者たちだけでやってほしい…。

 

 けれども今のワシはご主人様の愛玩奴隷、何はともあれここでまずするのは、ご主人様に喜んで貰えるような服を選ぶ事なのだ!。

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