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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
間章
176/3471

170手間

 昔から此処にあり様々な人を見てきたのを誇るかのように佇む扉を木が軋む音と共に押し開くと、十年一日あの時の風景をまるで切り取ったかのような光景が広がっていた。


「はい、いらっしゃい。お嬢ちゃんはギルド本部に用かい?」


「うむ、おばあちゃんに用じゃの」


「あらあらあら。何時ぞやの嬢ちゃんの娘さんかしら?」


「いんや、本人じゃよ」


「それはそれは、よく来たねぇ」


「おばあちゃんも息災じゃったかの?」


 やってきたのはギルド本部、あの時と違い今回は自前の馬車なので急ぐ必要は無かったのだが、街に到着した翌日直ぐにおばあちゃんに会いたくて朝早くからギルドへと足を向けたのだ。


「ふふふ、それじゃお部屋でお話しましょうかね」


「カイルや、おばあちゃんを部屋まで支えてやっておくれ」


「あ…はい」


 今度は体格では既にワシを追い抜いているカイルにおばあちゃんを支えを任せ、四人で部屋まで歩いて行く。


「好きに座ってね、それと書類はケインに渡しておいてね」


「うむ、これじゃ」


「確かに受け取りました」


「それじゃ、お話の前に…そのお二人を私に紹介してくれないかしら?」


「うむ、こっちが息子のカイルで、こっちが娘のライラじゃ」


「似てるとは思ってたけどやっぱりそうだったのね。ふふふ、二人共将来はお母さんににて美男美女に育つでしょうね」


「そうじゃろう、そうじゃろう」


「はじめましてカイルです」


「はじめましてーライラだよ」


「はい、はじめまして。私の事はおばあちゃんって呼んでくださいな」


「おばあちゃん…?かーさまのかーさまなの?」


「んー違うのー。おばあちゃんは此処のギルド長じゃよ」


「あらあら、バラされちゃったわ」


 茶目っ気たっぷりにおばあちゃんはそう言っているが、ハンターでは無いライラとカイルはイマイチ理解できていないようであまり驚いてないようだった。


「あー、そう言えば楽しみにしておると言っておったのぉ」


「小さな子から見ればおばあちゃんってだけで偉いもの…気にしてないわ。それに此処に来た娘が次に来た時に自分の子供を連れてきてくれるなんて、老い先短い身にはこれほど嬉しいことはないわ」


「うーむ、そこまで喜んでくれるのじゃったら、結婚した時にカルンと一緒に来ればよかったのぉ…」


「カルン…あぁ、少し前に二等級の推薦状を持ってきた子ね。そうなの、あの子と結婚したのね…あの子も私を支えて此処に来てくれたわ。なるほどお似合いの二人ね」


「うぅむ、あの時は丁度子育てが忙しくてのぉ…」


 カルンは火と水のダンジョン攻略を以って推薦状を貰い二等級へと上がった。それが子供が三歳ぐらいの時だったのでワシは家から動けずカルンだけ…正確にはアイナを除くおっさん三人組も居たはずなのだが…。どうやらおばあちゃんのお眼鏡には叶わなかったようだ。


「それは仕方ないわよ、お蔭で元気に育っているこの子達を見れたんだもの」


「そう言って貰えるとワシも鼻が高いのじゃ」


「ふふふ、そうだわ、おチビちゃんたち此処に来るまでに峠で世界樹を見たでしょ?どうだった?」


「すごかった!!どーんってでっかい木の周りにでっかいお岩がぐるぐるーって」


「あんな光景があるなんてびっくりしました」


「喜んで貰えたようで良かったわ」


 峠で世界樹の姿を見せた時はカイルも目をキラキラさせて興奮に震え、ライラは可愛らしくぴょんぴょんと飛び跳ねるほどだった。

 その姿を見るだけで此処まで連れてきた甲斐があったと染染と思ったものだ。


「さてと、そろそろお話を初めましょうか」


「うむ、そうじゃ…」


「ねーねーかーさま。お話長くなる?」


 話を初めようかという時分にライラが袖を引っ張りワシの顔を覗き込んできた。


「うーむ、そうじゃのぉ…。では、小遣いをやるからカイルと街を見て周っておれ。陽が天辺までにワシが宿に戻らねば此処に一度くるのじゃよ」


「やったー!」


「では、カイル頼んだのじゃ」


「はい、母様」


 カイルとライラにいくらかの銀貨と銅貨を渡し、部屋から駆けていくライラとそれを慌てて追っかけるカイルを見送ってからおばあちゃんと改めて向き直る。


「話の腰を折ってしまってすまんかったのぉ」


「ふふふ、子供は元気が一番。こんなところで大人しくさせている方が帰って毒というものよ」


「すまんのじゃ」


「それじゃ、あらためて。この書類と話を持ってきたってことは貴族になったって事でしょうけど…お見合い?」


「いや、違うのじゃ」


 お見合いのくだりで縁側でおちゃを啜っているのが似合うおばあちゃんから、ギルド長と呼ばれるに相応しい剣呑な空気に変わったが、ワシがそれを否定すると剣呑な雰囲気は幻だったのでは無いかと思うほど、それは雲蒸霧散した。


「惚れた男が偶々貴族だったという話じゃ」


「そう…それは良かったわ、女の子は恋してなんぼだもの。昔は色々とねぇ…」


 今はそういう事はあまり無いが戦争や内紛がまだあった頃や、それの影響が色濃い時代は貴族同士やそれに目をつけられたものが…という話が現実によくあったらしい…。


「さて真面目なお話しましょうね」


「うむ、と言ってもこちらはそこまで変わったことは無いのじゃ、西が気になるくらいかの…やつら何も言うて来ておらんからのぉ…」


「西は…ギルドを全面的に禁止にしたわ、結構前に…だからいくらかの支部長そろそろ此処に引き上げてくるはずよ」


「む、それでは西のハンターはどうするのじゃ、魔獣も変わらずおるんじゃろう?」


「えぇ、その辺りは西独自の組織を創り上げるそうよ、支部長や職員の大半はそっちに引き抜かれた感じね」


「うぅむ、よもやそのような事をしておるとは…奴ら独立でもするつもりかえ」


「私も長年生きてきたつもりだけど、こんなことをするなんて予想だにしなかったわ」


「腑に落ちんのは何故そんなことをしながら対外的に何も言ってこんのかじゃ」


「そうなのよね、教会の方は一切音沙汰が無いらしくて…」


「うぅむ…」


 ギルドとはある意味治安維持組織とも言える。ギルドに所属するハンターが魔獣や魔物を狩ることによって各町などの衛兵は町や街道周辺の治安維持に専念できる。

 そして各町にあるギルドは支部であり世界樹の街にあるギルドが本部となるので、有事の際には調停者としても振る舞える、なのでそれを切り離すという事は外部からは一切の指図を受けないという意思表明にもとれる。


 しかし解せぬのはハンターというのは子供の憧れの職業の一つだ。親としてはなってほしくない職業ナンバーワンだが…、それはともかく魔獣や魔物などという分かりやすい外敵から自分たちを助けてくれるヒーロー。魔法や剣に炎を纏わせて敵を斬るなんていかにも子供が好きそうな要素てんこ盛りだ。

 それを突然無くすなんて一般市民からの不満は如何程のものか、そしてどうやってそれを抑える腹積もりなのか…。


「国…でも創るつもりかのぉ…」


「くに………。そうねぇ、ハイエルフの里にちょっとお使いに行ってくれないかしら?」


「ハイエルフの里に…?うぅむ、行くのはやぶさかでは無いのじゃが…」


「あの子達なら大丈夫よ。だって貴方の子でしょ?」


「うーむ、そうじゃのぉ…。うむ、わかったのじゃ行ってこよう」


 ハイエルフの里周辺は殆ど世界樹の根本と言っていいほどなので、強烈なマナに晒されることとなる。ワシは大丈夫だが流石に子供たちを置いては行けないと考えていたら表情に出ていたのか、おばあちゃんが大丈夫だと太鼓判を押してくれた。

 長年色んな人を見てきたおばあちゃんの判があればと、そう言えばハイエルフの一人に会うことを約束してた事を思い出しおばあちゃんの提案を承諾する。


「そう言ってくれると思ってたわ。お使いの書状は明日までに用意しておくわね。それと馬は使えないから歩いていくことになるのだけど、子供の足でも一日あれば着くと思うわ」


「なるほど、わかったのじゃ」


「それと…夕飯前にあの子達を連れてまた来てちょうだいな」


「うん?わかったのじゃ」


 その後お昼は宿に戻り三人で食べると街中を観光してまわり、夕飯はおばあちゃんにごちそうになりお風呂まで入らせてもらった。ライニは入ることを固辞したため来なかったが、カイルは峠で世界樹を見たときと負けず劣らずなほど感動に打ち震え、一緒に入るかという言葉に羞恥に染まり、結局カイルは一人でワシとライラは二人仲良く入ることになったのだった。

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[気になる点] 未変換:お茶 お見合いのくだりで縁側でおちゃを啜っているのが
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