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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
間章
175/3474

169手間

 時は夕暮れ前、もう少ししたら陽の光が空を茜色に染め抜くだろう、宵闇もすぐ近くになるはずだがこの世界は一日が長い。暗くなる前でに夕餉を取って語らう位は十分ある。

 そんな中そこだけ一足早く夕焼けが照らしているかのような、ほんのり赤く染まる金糸の髪から同じ色の耳がぴょこんと飛び出す美少女が、ぽかんと大口を開けた顔で突っ立っている。

 実に間抜けな顔だが美しい顔に陰りが無いのは流石カルンの子のライラだ。


「かーさまお山が凄いねぇ…」


「明日はこれを登るんじゃよ」


「えー。これ登るの?嫌だなぁ…」


「馬車で登るから大丈夫じゃよ」


「よかったー、歩いて登るのかと思っちゃった」


 逸話通り世界樹を守らんとばかりに聳え立つ山々の麓で野営の準備を、と言ってもそれはすべてライニとカイルがしているので、その間することが無いワシらは山を眺めてたというわけだ。

 世界樹の周りをぐるりと囲み護るために出来たと言われるバスティオン山脈。雲を遮るほどの高さはないが歩いて登るのであればかなりの苦労をするだろう。

 中には修行と称してここを登る人もいるのだが、幸いな事に馬車のまま登れるよう道が整備されているので徒歩で登る必要はない。

 その分のたうつ蛇のように長く蛇行する道を登るため、徒歩用の登山道よりかなり距離は長くなるがそれでも朝一で登り始めれば特に足を止めない限り昼頃には峠に着くことになる。


「今日で野営は終わりなの?かーさま」


「そうじゃの、途中で馬が潰れん限りは明日中には着くじゃろうから」


「ハンターって野営とかいっぱいするの?」


「うーむ、街の近くならあまりせんのぉ…護衛ならば結構するがの」


 一日で着く距離の場所もあるが荷物を積んだ馬車の足はかなり遅い。次の町や村に着くのに一日二日はざらなので護衛を受けたり別の町に行くなら確実だろう。


「かーさまと寝れるのは良いけど、テント寝心地わるいしなぁ」


 昔はみんなで一緒に眠っていたが流石に大きくなってきたのでカイルとライラにはそれぞれ部屋を充てがい、二人はいまそこで寝ている。

 しかし野営では一人一つのテントという訳にもいかない、当初は大きくなったと言っても十歳の子供、それにワシも小柄なので三人寝ても十分テントの広さに余裕はあるが、そこはカイルが今更と恥ずかしがりワシとライラ、カイルとライニの二人づつで寝ることになったのだ。


「カイルも一緒に寝ればいいのに…」


「あれも年頃じゃしのぉ…」


「恥ずかしがってる方が恥ずかしいと思うのになー」


 あれで中身はワシと同じ転生者なので、見た目より精神年齢は上であるから余計に恥ずかしいのだろう。正直今更な気はするが…。


「ま、私はかーさま独り占め出来るからいいけどねー」


 そう言ってライラがぽふんとワシの尻尾に体を埋める、何故か二人を宿してから尻尾のボリュームが増え始め、今では後ろから見ると完全にワシの姿を覆い隠して余りあるほどになっている。


「私も尻尾増えるのかなー」


「うーん、どうじゃろうのぉ…尻尾が増えると服を着るのも尻尾を洗うのも一苦労じゃから、そのままでも良いと思うがの」


「えぇー。かーさまとおそろいが良い!」


「嬉しい事を言ってくれるのぉ」


「セルカ様、お食事の準備が」


「おぉ、すまんの」


 ライラの頭をわしゃわしゃと撫でていると、いつの間にかそばに来ていたライニがそう告げてきた。

 この旅の間ずっと御者に食事の準備とライニが全部やってくれている。ワシは長らく現場を離れているとは言え腐ってもハンター両方問題ないのだが、主人の義娘にそんな事はさせられないとの事なので任せている。

 幸い世界樹の近くは魔獣や魔物はまず出てこないし、フェンが居るので見張り番を立てたりする必要が無いので、そこまでやる必要が無いので大丈夫だと本人が言っているが、フェンが居なければ不寝番までするつもりだったのだろうか…。流石にその時は護衛の衛兵を付けるだろう…たぶん…。


「母様、明日には街に着くんですよね?」


「うむ、そこでまずはギルドに行って報告やら書類やらを渡して…その後はそうじゃのぉ…一日くらい街を見て回るのもいいじゃろうな」


「楽しみだねー」


「そうじゃな、教会に行くのも良いじゃろうな」


 その前に峠からの景色に二人がどう反応するか楽しみだ、ライラはこの山々を見るだけで口をあんぐりと開けてた位だ、顎がはずれなければ良いのだが…。

 カイルは流石に前世の知識があるためか山程度では驚かなかったが、明日はそうはいかないだろう。写真など無いこの世界、初めて見るであろうファンタジーな光景を前にどうなるか今から楽しみだ。

 茜色に染まり始めた山々を眺め、また来るだろうとは思っていたがまさか自分の子供と来ることになるとはと、きゃっきゃと街に着いたらどうしようかとはしゃぐ二人の声を聞きつつ感慨にふけるのだった。

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