167手間
カイルのとんでもない告白を聞いた後日、ライラを構い倒し寝かしつけた後に転生について詳しく聞くことにした。ワシの部屋で向かい合わせに椅子に座り、飲み物も用意して長い話になろうと大丈夫だ。
カイルからは絶対に転生の時の話を聞かねばならない…あの時は突拍子も無いことを聞いたのと、ワシ良いこと言ったという優越感に浸り気付いていなかったのだが、チート持ちの転生者を新たに送ってくるあたり女神さま怒ってるんじゃ無いかと…。
確かに幾らでもかかっていいとは言ったけど、子供こさえて更には何で別の事なんでやってるの?みたいな…?
「カイルや、ちと転生した時の事を聞きたいのじゃが」
「転生した時のこと?」
「うむ、手違いとか何とかその辺りとか…他には何ぞ女神さまに言われておらんかったかのぉとな」
「えっと…確か…」
最後に見た光景は高校からの帰り道、ゆっくりと向かってくるトラックの姿だった…。
明日から夏休みだって…初めての彼女が出来たからって浮かれてたのが悪かった。信号無視なのか居眠りなのか僕が赤信号に気づかなかったのかは今になってはもう分からない。
気付いたときにはもうトラックの姿は目の前だった。
びっくりするほどゆっくりと此方に向かってくるトラックに最初は危ないなぁ程度にしか考えてなかったけど、さっさと避けようと思った瞬間分かったんだ。人間やばい時は周りがスローモーションになるんだって。
けど悲しいかな…僕はスポーツマンでは無かった。何せ夏休みで喜ぶ帰宅部だ。結局トラックにぶつかる直前までピクリとも体は動かなかった。けど幸い痛みなんて感じずぶつかると思った瞬間に景色は反転し僕は真っ白な空間に立っていた。
「ここは…?」
「貴方は死にました…」
立ってると思ったけど上も下も分からない空間全体から響いてるかのような優しい声で、そんな事実を伝えられた。
「あぁ…やっぱり…」
「ごめんなさい、貴方の死で手違いがありました」
これを聞いた時にピンと来た、このシチュエーションは小説でよくあるパターンだ、もしかして僕が死んだのは手違いで生き返らせてもらえるとかそんな感じの事があるんじゃないかって。
「貴方が死んだこと自体は運命通りです」
「えっ…」
「手違いと言うのは貴方の記憶が消えなかったことです。本来であれば魂に刻まれている因果など以外は全て消されて同じ世界で然る後、産まれ直す予定だったのですが…」
「えーっと…?」
「そうですね…寿命を迎えたパソコンからSSDだけを取り出してOSと基本ソフトだけ残してクリーンにした後新しいPCに載せ直して再出荷するはずが、以前のパソコンのデータそのままに出荷ラインに乗ってしまったと…」
「えぇ…と…?」
ファンタジーな理由から突然俗っぽくなったというか余計わからなくなったというか…。
「幸い新しいPCに載せられる前に弾けたので良かったのですが、新しいPCに載せるための処置を済ませてしまったので、もう一度データを消すラインに戻してしまうと不具合が起きてしまってですね」
「えっと…あの…僕はそんなにパソコン詳しくないんで普通に説明お願いします」
「あ、そうですか。簡単に言えば転生できないよという事です」
「凄いぶっちゃけられた…。えっとだったら何で僕はこんなことに?」
「そこで本題です、転生できないと言ってもそれは貴方の元いた世界での事で、貴方の魂に耐えられる体がある世界に転生するか、このまま魂までも死に至るかです」
「つまり異世界に転生するか死かということですか?」
とどのつまりテンプレってやつだ…。
「その通りです、丁度良いことに魂に対する強度の高い子供を産みそうな人が居るのでその人の子供に…」
「えっ…それって元の魂とかそんなのは…」
「そうですねー。本来入るはずだった魂は別の機会に別の人の所にって事になりますけど、安心して下さい。まだ魂が入る前なので乗っ取るとか消し去るとかではないので」
「えぇ…」
この空間に来て「え」ばっかり言ってる気がする、というか声はすごい女神さまって感じなのに喋り方が凄いそこらのお姉ちゃんだ…。
「さてと…魂を体に定着させやすいように暫く眠ってて貰いますね。それではお元気で。あ、お母さんによろしくね」
「…みたいな感じで、すごく気安い方だった」
「う…うむ。相変わらずの様じゃな…」
「あ!それで最後お母さんによろしくって言ってたのか」
正直カイルの話を聞いている間、内心冷や汗ダラダラだった…。カイルやライラの前では頼りになるお母さんで居たいので、おくびにも出さないようにしていたが…。
それにしても相変わらずの俗世に染まった女神さまである、正直どこぞのネットゲームなりやってても納得出来るレベルで…。
しかし、あの話をしてからカイルの口調がかなり砕けてきている。カルンが今でも丁寧に話すのでそれに似たのかと思っていたが、どうやらカイル個人の中で線引をしていた結果のようだ。
「んー、カイルや。今の話を聞く限り、カイルが心配してるような事は女神さまが否定しておったではないか」
「それは…その…僕に対しての言葉であって、母様がどう感じるかなんて…わからなかったから…」
「ふぅ…カイルや…」
「えっ?あいたっ!」
「ちっとは母様を信用せい。言うたであろう、中身が何であろうとカイルはカイルじゃと」
カイルの頭にこつんと軽くげんこつを落とし、その手でカイルの頭を撫でる。
そんな折、コンコンとノックの音が響き「領主様よりご伝言が」とエラの声が聞こえたので入室を許可する。
「失礼します」
「エラや、伝言とはなんじゃ?」
「はい、明日屋敷に来られるようにとの事でした」
「ふむ?他には何も?」
「それ以外には何も」
「ふぅむ…わかったのじゃ」
「では、確かにお伝えしたと」
「うむ、頼んだのじゃ」
ライラが起き出したのもありカイルとの話はそこでおしまいとなった。ワシと同様前世の記憶があるとは言え周りから見ればまだまだ母恋しな十歳の子供。久々に一緒に寝ようかと聞けば素気無く断られたので、それを聞きつけたライラとその日は二人一緒に寝るのだった。




