17手間
朝日で目を覚ますと射し込んできた光に目を細め、くあぁと欠伸を一つ。
そよ風が気持ちいいなと思いつつ、一度強く瞑った目を開くと、アレックスの若干呆れた顔と
いいものを見たとばかりに、微笑ましくしているお姉さん方に交じって
ニコニコとしている、一部のおっさんどもが目に入る。
ハッっと我に返って、いつものキリッっとしている(と自分では思っている)表情に戻す。
この世界、空が白み始めてから日が顔を出すまでには結構時間がかかるらしく、
装備の点検なども殆ど無く、探索の仕方を相談するなんて事も無かったので、
ついつい、モフモフ尻尾を枕や布団にして寝てしまっていた。
「ほれほれ、お嬢ちゃんが起きたならぼちぼち出発しろおまえら」
そうギルド長が声をかけると、ハンター達は心底残念そうな表情をしながらも、森へと向かって出発し始める。
「もしかして、ワシのせいで出発が遅れたりしとらんか?」
「いや、元々ここに来るまでの道中、魔獣にも会わなかったし、予定よりも早く着きすぎたからな」
よほどバツが悪そうに見えたのか、心配ないとアレックスがそう答えてくれた。
立ち上がり体に付いた草を払うと、さっさと既に陽が射して随分と明るくなった森に入る。
やれやれとばかりに、アレックスもそれに続く。
「うぅむ、昨日と同じじゃの、スライムはもう居なくなった筈じゃのに、魔獣どころか
獣にすら遭わんとは…やはり、まだ残っとるということかのぉ」
「そう考えたほうが良さそうだな、もう少しここを調べて何もなければ時間まで奥を調べるか」
森に入り少し歩いても、言った通り何にも出会わず、これはまだスライムが居るのではないかと
また囲まれてはかなわんと、耳をそばだてつつ歩いたが、結局二人の足音以外
不気味なほど何も聞こえないまま、昨日スライムと戦った場所まで着いたのだった。
「んー、昨日のワシらが戦った後に何かが来た痕跡は無さそうじゃのぉ」
「あぁ、アレだけのスライムが発生するほどに穢れが淀んでるなら、
本来であれば何かしら魔獣が生まれたり、残滓を取り込みに来たりするはずなんだが…」
あまりお互いが離れすぎないように、そう声をかけつつ周辺を探していると
獣道という程ではないが、何かしらがここを通ったのではないかという風に
不自然に草が倒れ、それが奥まで続いている場所を見つけた。
「のう、ちょっとこっちへ来てくれんか。何かが通ったような跡を見つけたんじゃが」
そう声をかけると、サクサクと草を踏む音と共にアレックスが傍まで来たので
これなんじゃがと見つけたものを指さす。
「これは何か引きずった跡のような…草も枯れてないし、かなり新しいものだな。
昨日のスライムがここを通ってたのかもしれないし、辿ってみるか」
そうアレックスが分析してる最中、その跡の周りを見渡すと同じような方向に
草が倒れた道を見つけたので、それも告げるとこれは確定だな、と頷くので
ここでの探索を止め、スライムが通ったあろう道をこれまで以上に慎重に歩を進める。
「やはり音はせん、スライムどころか小鳥の一羽も居らんようじゃ」
道の続く先の音を集中して聞いてみたが、葉がこすれる音以外聞こえることもなく
少しだけ足を速めて進むとスライム道の先、木々が少なく視界が開けた場所に出る
その広場の中央、少しくぼんだ地形の中ほどに、大人が数人並んで入れそうなほどの洞窟が口を開けていた。
「これは当たりのようじゃのぉ…入口あたりは草が生えておらんが、その手前まではまっすぐ道が続いておる」
「だな、少し広場の周囲を回って、スライムや他の魔物がいなかったら光弾をあげて戻ろう」
それなりの広さがあるが分かれるのは危険なので、一緒に探るが特に何かがいる様子も無い。
「拍子抜けだが、安全は確認できたし戻ろう。ここまでの道は大丈夫か?」
バッチリじゃと頷けばアレックスが空に向け光弾をあげ、イヤリングが鳴るのを確認して
周りを警戒するが、何もくる気配が無いと判ると、それじゃ帰り道を頼むぜと言うので
出発した場所まで先導して戻れば、浅い場所を探していたのかすでに全員揃っているところだった。
「何か見つけたのか、アレックス」
すでに誰が光弾をあげたのか聞いていた様で、ギルド長が話しかけてくる。
「あぁ、昨日戦った場所から何かが引きずったかのような跡を見つけたんだ。
まだ新しかったし、ほぼ確実に昨日襲ってきたスライムのものだろう」
そう前置きしてから、その先で見つけたものを詳しく説明する。
「スライムが出てきたらしい洞窟か…中は確認したのか?」
「いや、何か居てもまずいしな。刺激しないように周囲しか確認はしてない。
周りでは何も見つからなかったから、洞窟が発生源で間違いないだろう」
「ふむ、では3つの班を作り洞窟内を探索する。まず洞窟内を探索する班、
洞窟のすぐ傍で待機する班、街に戻り緊急時即座に応援を出せるよう待機する班」
ギルド長がそう言うやいなや、テキパキと誰がどの班になるか指示を飛ばす。
ワシを含む近接戦闘が得意な者と、斥候が得意な者が洞窟内を探索する班に
周辺警戒、遠距離攻撃が得意なものが洞窟そばで待機する班に
そして、足が速いものが数名街へ戻る班になった。
「洞窟班のリーダーは今回洞窟を見つけたアレックス、お前がなれ。青と赤を渡しておくから
四半刻毎に青を鳴らせ、問題が発生したら赤を。洞窟についたら待機班から一人こっちへ戻れ。
残った待機班は四半刻を過ぎても青が聞こえなかったら光弾を一回、遅れて青が聞こえたら二回あげろ、赤が聞こえたら連続三回。街へ戻ったものは黄が聞こえたら応援を呼んでこっちへ即座に戻れ」
黄色のベルを取り出し街へ戻るものが確認すると直ぐに街へ移動しはじめ、それに合わせ
ワシを先頭に先ほどの洞窟へ向かい始める。




