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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
間章
168/3471

162手間

 屋敷の庭でとてとてと覚束ない足取りで、きゃっきゃと走るライラをぐおーなんて叫びながらカイルが追っかけているのを木陰で眺めている。

 カイルは本当に賢くてわがままも言わないし双子の妹の面倒もよく見てくれる出来た息子だ。ライラも少々おてんばな所はあるが基本的に大人しいので年相応に手はかかるが十分子育ては楽だと言える娘だ。

 まだまだ足取り覚束ないライラのそばにカイル以外にもワシも居ないと本来はダメなのだろうがその辺りも大丈夫だ。躓いたのかライラがよろけるがカイルもワシも慌てない。何せよろけた先に素早い動きで体を潜り込ませライラをふわりと受け止めてくれる頼もしい奴が居るから。


「ふぇーん」


「ありがとうフェン」


「わふん」


 もう子犬とは呼べないほどに成長したフェンが誇らしげに一声出すが、褒められて嬉しいのか尻尾はぶんぶんと振られている。

 よろけた姿勢のまま、もふもふとフェンの体に埋まるライラとそんなフェンの頭を撫でるカイルはソレだけで実に絵になる。カメラがあればすごい勢いでシャッターを切っているに違いない、いや…今すぐ画家を呼んでなどと考えている内に、今度はフェンを交えてはしゃぎまわり始めた。


 前世の時から子供好きでよくお世話もしていたが、そう言う時に感じていたのとは根本的に違う心の奥底から感じる温かさが母親になったのだぁと実感させてくれる、それと同時に何が何でもこの子達を守らなくてはとも思わせてくれる。

 こんな気持になれる切っ掛けをくれた女神さまには感謝してもしきれない。あとそれの切っ掛けになった前世のワシを召喚しようとした見も知らぬ奴ら共にも少しは感謝してやらんこともない。


「かーさまー」


「どうしたのじゃ、カイル」


 ぽかぽかとした陽気と木漏れ日のささやきにうつらうつらとしていると、カイルの声が聞こえ指差していた方を見ればライラがフェンに体を預けぐっすりと眠ってしまっていた。

 はしゃぎ疲れ寝てしまったのだろう、夢の中でも遊んでいるのか時折ぴくぴくと動く耳にくすりと笑い、ライラを起こさないようにそっと抱え上げる。


「それでは戻ろうかの」


「はい、かーさま」


 手を差し出すと小さな手でワシの手をぎゅっと握りしめてくる。指先を握るのがやっとだったのが昨日の様に感じられるのにもう手を握り返せるほどに大きくなっている。子供の成長は早いなと感慨にふけりつつ、まだまだ離乳食なのに今日の夕飯は…なんて言ってるカイルの姿に思わず幸せを頬に浮かべてしまう。


 最近やっと二人共卒乳を果たし今の食事は離乳食だけとなっている…卒乳したから離乳食とは言わないのか…この卒乳の時ライラがぐずると思っていたのだが、意外にもぐずると言うかショックを受けた風だったのはカイルだった。

 やはりエラが驚くほどの聡明さでも、まだまだ母恋しいのだろうと嬉しくなったのが思い出される。男の子だからかお乳をあげる時は目をカッ見開いて一滴も零すまいと必死に吸い付いてくるのだが、それが最近ますます強くなりちょっとそれが怖くて卒乳を敢行した事は、将来カイルが自立したときの為に今はそっと胸の内にしまっておこう。


「夕飯にはまだ早いからの、それまでは母様と遊ぼうの」


「はーい」


 遊ぶと言ってもカイルは一人の時だと積み木などで遊びたがらない。なのでもっぱら読み書きを教えることになっている。チョークとそれを消す魔具のセットなどもあるのだが、子供に持たせるにはチョークが大きすぎ、さらにかなり高価なものなので、長方形のお盆の様なものに砂を敷き詰めた物を使って教えている。

 さすが子供というべきか…まるで既に知っている事を復習していると言わんばかりの速度で読み書きを覚えてくれるので、教えてる方も楽しくついつい時間を忘れてしまう。


「セルカ様、お夕飯のお時間です」


「おぉもうそんな時間かえ、カイルや今日はここまでじゃ」


「はーい」


 まだまだおネムのライラを抱え食堂へと向かう。


「しかしカイルは賢いのぉ。大人でも文字は読めんものも多いのに」


「かーさまの子ですから!」


「ふふふ、嬉しいことを言ってくれるではないか」


「あ、かーさまほしいものがあるのですが…」


「さてはそれが狙いじゃったの?何がほしいのじゃ?言うてみい」


「文字もたくさんおぼえたので、ご本がほしいです」


「ふむ…本…本のぉ…家にあるものは仕事に関係するものじゃし…ふむ、明日見に行こうかの」


「やった!」


 ちょっとかわいくないおねだりの方法と物だったが、喜ぶ姿はおもちゃを買ってもらえる子供の様に年相応の顔だったのでほっとすると同時に微笑んでカイルの頭を優しく撫でる。


 この世界、製紙技術はそれなりなので紙は高価だがそこそこ出回っている。しかし活版などの印刷技術はかなり低いようで出回っている本は手書きの原本か写本だけとなっている、識字率の低さも本が出回る数に待ったをかけている。

 なので本は日用品とは呼べないほど高価な部類になるしさらにそのせいかは知らないが、その殆どが実用書の類で伝記や英雄譚などのお話の本は売っていない。そういうものは教会で説法の一つとして聞いたり親が言い聞かせるに留まっている。


 お父様が治めているカカルス領では、まだ全てではないもののある程度大きな町には名前がつき、ブランドという概念が浸透しつつあり税収も上向きになっているらしい。そのお蔭か孤児院も新たに入ってくる子供が減り手が開いてる人が増えているとカイルとライラを連れて行った時にぽろりと零された。


 そしてその時に同年代の子と仲良く遊ぶカイルとライラを見て思いついたのだ、この世界に学校…というか寺子屋に近いだろうか、まずはある程度の裕福な家庭向けの学習機関の設立をお父様に提案している。

 二人を連れて教会付近の公園に行くと、そこにいる子供達と遊びはするのだが、毎日遊びにというわけにもいかない…なので学習機関兼同世代の友達を増やす場として、何としてでも近いうちに設立させて欲しいうちの子の為にも!


 翌日カイルと本も売っているお店に行ったのだが、やはりというか…かなり高齢向けの実用書ばかりが並びがっかりしていたので、欲しがりそうなものがあるか心配だったのだが、一つだけあったハンター向けの剣と魔法の実用書をカイルは選び大事そうに抱え毎日熱心に読むようになっていった。

 

その時は実用書ではあるが剣や魔法に憧れるのは何処の世界でも一緒なのだなと妙に感心したものだ。

 読み書きがしっかりと出来るので将来お父様やお兄様、カルンを立派に支えてくれる事を期待しているが、剣や魔法に関心がありさらにカイルには宝珠がある。ハンターや衛兵となり街の人を守る大人になってくれるのも良いかもしれないとカイルの将来に思いを馳せるのだった。

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[気になる点] 誤変換:空いて そのお蔭か孤児院も新たに入ってくる子供が減り手が開いてる人が増えていると [一言] ライラには宝珠があるの? 無いと寿命の差が大きそう。
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