161手間
出産自体は驚くほどスムーズに終わった、産婆さん曰く初産でしかも双子なのに問題もなく終わったのは奇跡に近いと、双子は吉事なのは間違いないが前世ほど医療が進んでいるわけではないこの世界、片方が…最悪両方死産の可能性が非常に高いそうだ、お母様とエラが言いよどんでいたのはこういった理由からだったんだと理解した。
「元気な男の子と女の子ですよ」
産後の処置も終わり赤ちゃん二人も綺麗に洗われてお包みにを身にまとった二人がワシの左隣に置かれる、生まれた直後は自分の存在を示すかのように力強く泣いていたが、いまは指を咥え大人しくしている。
当初は二人を抱きかかえてあげたかったのだが、体の向きを変えることすら億劫なほど消耗していたので今は何とか片手を二人に伸ばすのがやっとだった。
生まれたばかりでまだしわくちゃのお世辞にもカワイイとは言えない、かわいいかわいい我が子…頬を撫でるとそれに反応してかワシの指を小さな小さなその手できゅっと握りしめる姿に愛おしさが溢れてくる。
「セルカさん…ありがとうございます。無事に産んでくれて本当によかった」
「ふふふ、流石ワシじゃ…けれどもさすがのワシも疲れたのじゃ」
子供二人を本当に幸せそうに覗き込むカルンから子供二人に目を移す。
先に産まれてきたのはワシと同じ白銀の髪の男の子、次に産まれてきた双子の妹は此方はカルンに似た赤みのある金髪の女の子。男の子はヒューマンで、女の子の方はワシと同じ狐の獣人だった但し尻尾は一本だけだが。
カルンは指をぎゅっとしてくる我が子に感動しつつ、どっちに似てるかな?なんて呟いている。軽くなったお腹を撫で、まだ何やら子供に話しかけているカルンの言葉を子守唄に一足先に眠りにつくのだった。
それからはまさに怒涛の日々だった、子供が二人だから苦労が二倍なんて生ぬるい二乗三乗に大変だった、お母様やエラが居なければ絶対に参っていたであろう事は想像に難くない。
赤ちゃんを抱えて授乳なんていう母性溢れるシーンを夢見ていていたがそれは幻想だった。我が子二人をラグビーボールかのように小脇に抱え二人同時に授乳など母性の欠片も無い、二人同時に与えないとお腹のすく時間がずれて大変になるとかなんとか…。
小脇に抱えた時に日々重くなっていく我が子の成長は実に嬉しく、見た目はアレだが母親しているという実感に浸れる嬉しい時間だった。
日々成長している我が子だが、男の子…お兄ちゃんの方は髪以外にもキリッとした目元がワシそっくりだが聞き分けもよく、エラにして余り手もかからないと言わしめる、さすがカルンの子と誰かれ構わず自慢したい。
女の子…妹は垂れた目尻がチャームポイントのお兄ちゃん程ではないが此方も聞き分けの良い、将来はさぞや男を誑かすであろう美女に成長すること間違い無しの美少女だ。
あと忘れてはいけないのがフェンだ、彼も我が子二人と一緒にぐんぐんと成長し実に立派なお兄ちゃんをしてくれている。
「とーさま、かーさまーここーどこ?」
「まんま。あきゃー!」
津波のような毎日はあっという間に月日を押し流して、空にあった夫婦星までも押し流し今はもう見えない、そして今日は二人が産まれて一年…いや一巡りが過ぎて遂に名前が貰える日となった。
この一巡り名前が無いのは実に不便だった、それも今日で終りとなると実に感慨深いものがある、そして言葉なのだがお兄ちゃんの方はびっくりするぐらい喋れるようになった。
まだまだ辿々しいが一歳でこれならば我が子は天才かもしれない、いや天才だ。妹の方はまだあまり喋れないのだが、エラに言わせればこっちのほうが普通だそうだ。
お兄ちゃんは更に手を繋いでいれば十分すぎるほど歩けるので本当に楽になった…妹の方も歩けるのだがまだ一人で歩かせるには不安が残る。
「今日はの、二人に名前を貰いに来たんじゃ」
「なまえをー?」
「なまえー」
「うむ、そうじゃよーキラキラして綺麗じゃよ」
「なまえ、きらきら?」
「きらきらー」
「ふふふ、そうじゃの」
名付けの儀式は滞りなく終わった…いや、何と言えば良いのかもっと荘厳なものを想像していたのだが、「これにたっちできたら、おかしあげるよー」なんていう近所のおじさんかな?みたいな神官の言葉に導かれ名付けのための晶石に触れて終了といった感じだった、確かに一歳の子供に荘厳な儀式は無理があるだろうことは分かるが…。
「カルンの時もこうだったのかえ?」
「いやー、流石に覚えてないです」
「かーさまおかしもらった」
「おかしー」
「ふふふ、良かったのぉ、カイル、ライラ」
「「うん」」
お兄ちゃんがカイル、妹がライラだ。魂に刻まれていると言えば良いのか、二人共今日始めて呼ばれる名前なのに、それが産まれたときから呼ばれている名前かのようにすんなりと受け入れている。
「幸せじゃのぉ…」
「えぇ…」
お菓子を食べ終え、教会の公園で小鳥を追いかけるライラを追いかけるカイルを眺めながら、近くにあるベンチに座りカルンの肩に頭を寄せてそっと呟く、偶然か必然か何時か二人で誰かの結婚式を見たベンチで今は二人の子供が元気に走り回る姿を眺めるのだった。




